キリスト神話の方法(6)アブラハムの種

題:キリスト神話の方法(6)アブラハムの種

 1月13日の記事、「キリスト神話の方法(3)種子の秘密」において、わたしはサムエル記下7章のダビデの種子が原始キリスト神話の出発点だと主張してみました。しかし、旧約聖書の文言をそのように解釈することは、原始キリスト教徒にとって本当に可能だったのでしょうか。

■アブラハムの種 
 ここで検討したいのは、アブラハムの種子についての原始キリスト教徒の解釈です。ガラテヤの信徒への手紙3:16には次のような解釈が載せられています。これもまたキリスト神話の一つでしょう。

ところで、アブラハムとその子孫に対して約束が告げられましたが、その際、多くの人を指して「子孫たちとに」とは言われず、一人の人を指して「あなたの子孫とに」と言われています。この「子孫」とは、キリストのことです。(略)では、律法とはいったい何か。律法は、約束を与えられたあの子孫が来られるときまで、違反を明らかにするために付け加えられたもので、天使たちを通し、仲介者の手を経て制定されたものです。(ガラテヤ3:16, 19)

■アブラハムへの約束 
 ここで言われている「アブラハムとその子孫」に対する約束とは、創世記12:7と15:4のことを指していると思われます。パウロによれば、アブラハムへの約束に出てくる単数形の「子孫」とは、アブラハムの末裔たちのことを指しているのではなく、キリストただ一人のことを指しています。ちなみに、サムエル記下7章のダビデの種子も単数形の「子孫」です。

主はアブラムに現われて、言われた。「あなたの子孫にこの土地を与える。」(創世記12:7)
アブラハムは言葉をついだ。「御覧のとおり、あなたはわたしに子孫を与えてくださいませんでしたから、家の僕が跡を継ぐことになっています。」見よ、主の言葉があった。「その者があなたの跡を継ぐのではなく、あなたから生まれる者が跡を継ぐ。」(創世記15:3-4)

 ガラテヤの手紙のパウロによれば、アブラハムに約束された子孫=種(単数形)とは、イサクやその子孫たちのことではなく、キリストというただ一人の人物のことを指すのです。

■種の神話 
 この種の理論は、サムエル記下7:12のダビデの子孫=種(単数形)にも応用されたはずです。旧約聖書のアブラハムとダビデのそれぞれに約束された種とは誰なのか。この問いこそが原始キリスト教の神話の核であり、この核から後に、福音書のイエス伝も形成されたのでしょう。

2021/01/16
作:Bangio


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