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ある週末サーファーの記録026 プライア・デ・イタグアレ 5

 日曜起きたら 朝飯食って
 ボードつかんで ママにハグ
 祈ったら 海に行け 海に行け
 孤独な スルフィスタ
 孤独な スルフィスタ
                Jorge Ben Jor (1980)

 土日のグアルジャにはたくさんのスルフィスタ(surfista、サーファーの意)がいた。もう少し空いていてもう少し良い波はないか。そうやってポイントからポイントを巡るのがスルフィスタだ。

 グアルジャから沿岸部をさらに40kmほど東に行ったところに「プライア・デ・イタグアレ(Praia de Itaguare)」があった。この広々としたビーチはジャングルの小道を抜けた先に突如現れる。ビーチへの唯一のアクセスであるその小道が幹線道路からだいぶ離れており、人目につかないので、夏場以外はサーファーもまばらな隠れ家的ポイントだった。

 海岸の右手には海に突き出た丘がある。こんもりと盛り上がった丘の一番高いところは海抜20mくらいか。丘の上にはびっしりと木が生えており、人を寄せ付ける雰囲気はない。丘は海に対して急に落ち込んでおり、海水と交わる部分には丸みを帯びた赤褐色の巨岩が並ぶ。

 その岩を起点としてライトの波が割れる。地形が決まれば長い波に乗れるし、何より空いていてワイルドな雰囲気が気に入っていた。

 その日はイタグアレでの何回目のサーフィンだったろう。風の影響もあったと思う。海面全体がざわついて規則正しく波が割れない、いわゆるジャンクなコンディションだった。他のポイントもどこも同じような状況だった。サンパウロから2時間以上かけて来たのだ。せっかくだから少し遊んでいこうと思った。

 波をチェックしに来ているサーファーはちらほらいたが、誰も海に入ってはいない。一人で入るのは少し心細いが何度も入っているポイントだ。波のサイズも腹から胸ぐらいで特別大きい訳ではないし、このポイントのカレント(潮の流れ)もよく分かっているつもりだ。

 海に突き出た丘を右手に見ながら入水する。巨岩群に沿って浜から沖への流れがあり、それに乗っていけばすぐに沖に出られる。ある程度沖に出たら左方向に、すなわちその岩から離れるようパドリングをして、その辺りで波をつかまえる。波に乗ったらまた岩の近くに戻って沖に出る。円を描くように乗って戻ってを繰り返すのがこのポイントでの遊び方だった。

 一度か二度短い波に乗った。テイクオフしたらすぐに波がなくなってしまい長くは乗れない。岸から見ていたとおりのイマイチな波だった。
 「早めに上がろうかな・・」
 そう思った。同時に自分がやや岸から遠いポジションにいることに気付いた。ちょうど良い、一旦岸に向かって、ジャンクな波に何度か押されてそのまま岸に戻ろう。パドリングする。

 なかなか波が割れるところまで戻れないことに気づく。波のサイズはそれほどではないのに、離岸流(沖に向かう流れ)があるのだと悟る。

 そんなときは岸と並行にパドルする。私が初めてサーフィンに連れて行く人に必ず説明する基本のセオリーだ。離岸流のゾーンを離れれば必ず岸に戻る流れがある。そうやって海の水は循環している。岸から見て右側には丘がある。右には行けないから、左の方向に100mも漕げば岸に戻れる流れに乗れるはずだ。左に向かってパドリングする。

 パドリング。パドリング。
 パドリング。パドリング。

 ボードの上に腹這いのまま振り返ってみる。岩が同じ位置に見える。自分がさっきと同じポジションから動いていないようだった。

 パドリング。パドリング。
 パドリング。パドリング。

 やはり変らない。異変を感じ始める。かなり漕いだので、ボードに座って少し休む。岩場からは離れていないが幾分沖の方に流されているようだった。

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