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ある週末サーファーの記録031 レンボンガン島 4

 翌朝、ガイドのお兄さんがハイエースでホテルにやってきた。プーケット島で今日一番コンディションの良いポイントに連れて行ってくれるという。島に到着して2日ほぼノーサーフだ。今日は乗らないと、と気合いが入る。

 ホテルを出発して約30分、カタ・ビーチから北に20km、目的の「カマラ・ビーチ(Kamala Beach)」に着いた。海を見る。

 「・・・」

 暫し沈黙。コウスケと顔を見合わせた後、ガイドのお兄さんに視線を向ける。
 「まあ、プーケットっすからね」
 兄貴に悪びれる様子はない。カマラ・ビーチは海岸の向きもカタ・ビーチにそっくりな美しい入江の海岸だった。波質が変わる要素はなさそうだった。諦めて入る。ビーチから見たとおり長く乗れる波ではない。

 愛知県出身というガイドの兄さんはそんな波でも波のコブを見つけて、垂直にターンを決めている。上手いし、この波の乗り方をよく知っている。
 「プーケットはどの季節のどのポイントが一番良いんですかね?」
 ガイドの兄さんに聞いてみた。
 「この時期のここっすねー」
 季節が合っているという点についてはコウスケは正しかった。サーファーがほとんどいない穴場だという点も合っていた。唯一、「良い波がある」という最も重要な点は誤っていた。少なくとも私たちの滞在日程においては。
 「それより、お兄さんたちマッサージとかいかがっすか?」
 兄貴はサーフガイドの他に客引きもやっているらしかった。

 プーケットでもあまり良い波に恵まれない中、原付をレンタルして海岸沿いを走った。アップダウンがある一本道を行くと、ふとした瞬間に美しい入江や海岸線が目に入る。プーケットが世界的なビーチリゾートであることが納得できる景観だ。たまに観光用のゾウとすれ違うのも楽しい。

 道端の屋台ではレモン色の液体が入ったガラスの瓶が何十本も並べられて売られていた。飲み物ではなく、原付用のガソリンだという。我々もその瓶を買って給油した。ちょうど瓶1本で満タン近くになった。日本では到底認可されないビジネスモデルだろう。

 波がなくて、島を原付でグルグル。そういえばレンボンガンでも同じことをした気がする。隣を走るコウスケがデジャヴ感を増幅する。
 「そうだ、バリに行こう」
 走りながらそう思った。

 プーケットにはあと4日滞在する予定だったが、ホテルに戻った私は、ネットで航空券を探し始めた。翌日のAir Asiaの飛行機でバリ・デンパサールに飛ぶことにした。残り4日間だけでも波に乗らなければ。プーケットに期待するのは諦めた。

 翌る日、もともと少し早めに帰る予定だったコウスケとはそこで別れた。彼は別れ際「悪かったね」と言った。
 「全然。またサーフトリップしよう」
 そう言いながら、いったいプーケットが良いという情報をこの男はどこで仕入れてきたのだろうと思った。

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