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ある週末サーファーの記録033 ザ・パス 1

 サーフトリップで海外に行く場合、今どこそこの波が良いからといって、その場で航空券を買うような経済的、時間的余裕は私にはない。当然、ある程度事前に計画を立てるわけだが、トリップに行ける日程、すわなち、まとまった休みが先に決まって、その1週間なりに波がありそうな場所を選ぶことがほとんどだ。

 長期の気象予報を含めいろいろと情報収集はするが、やはり1週間程度の滞在中に良い波を当てるのは至難の業ともいえる。

 そんな私が初めて1人で海外サーフトリップに出たのは、2009年1月頃だった。リサーチの結果、やはりここは良いらしいと選んだのはオーストラリアだった。東海岸に位置するブリスベン。南に行けばゴールドコースト、北に行けばヌーサヘッズ。この辺りにはサーファーの誰もが憧れるポイントが点在する。

 メキシコで初めてボードの上に立ってから、なかなかサーフィンは上手くならなかったが、ポルトガルである程度集中して海に通う生活ができたこともあって、なんとなく中級者くらいにはなれたかなと少し自信が付いてきたところだった。同時に、ただ闇雲に海に通えば上手くなるわけでもないということもわかった。良い波に回数乗ることが上達への近道なのではないかとどこかで感じていた。オーストラリアに行ったら自分のサーフィンを変えてくれる良い波に巡り会えるかもしれない。そんな期待があった。

 ブリスベン空港に着いてすぐにレンタカーを借りる。その後のトリップでも私の定番になった行動パターンもこのときが初めてだった。空港からサーフスポットに直行し、空港で車を返却するため、その空港がある街に足を踏み入れることはほとんどない。このときもブリスベンの市街地には結局立ち入らなかった。

 空港から南方面に向かう。初めての国で運転するのはいつでも緊張する。途中ゴールドコースト一帯でも特に良い波があるクーランガッタという町で海をチェックする。丘の上に車を停めて、世界でも10本の指には入るだろうメジャーポイントのスナッパー・ロックス(Snapper Rocks)を見下ろす。

 これほど規則正しく長く割れる波を見たのはその時が初めてだった。海に向かって右側の岩の奥から胸〜肩くらいのライトの波がスタートする。サーファーたちはそこで波をつかまえ、何回もリッピングを繰り返して滑らかなフェイスに思い思いのラインを描いていく。サーファーなら誰でも夢見るような波だ。何本も何本も同じ波が続く。こんな波が割れるところが世界にはあるのかと思った。

 ただ、私はその海には入らなかった。とてつもない人の多さだったのだ。このポイントに入ったとて、波に1本乗れる可能性と他のサーファー(又はその板)とクラッシュする可能性はトントンだろう。

 世界的ポイントに後ろ髪を引かれつつ、私は南下を再開した。目指すはクーランガッタから南60kmに位置するバイロン・ベイ(Byron Bay)だ。サーフィンのガイドブックによれば、300mものロングウォールが立つ伝説的なポイントだという。

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