見出し画像

ある週末サーファーの記録019 スコーピオン・ベイ 2

 バハ・カリフォルニアは南北に1,200km以上延びる細長い半島である。私たちが旅を始めたロス・カボスは最南端に位置する。半島の大部分は無人の砂漠が占める。スコーピオン・ベイは南端から半島全体の3分の1くらいの場所にある。

 まずはロス・カボスを出て、「この夏は忘れない」で坂口さんも行った「Los Cerritos」というサーフスポットに着いた。砂浜の延長のような空き地に無造作に車を停めて海に出る。雲ひとつない抜けるような青い空の下、緩やかなカーブを描く白砂のビーチには、アメリカ人と思しきサーファーや海水浴客が数えるほど。強烈な日差しと高温だが、極度に乾燥しているため、風が吹けば心地よい。妻は砂浜に座って沖の私を狙ってカメラを構える。

 この旅行中、彼女にいくつか動画を撮ってもらった。それなりに望遠が効くカメラで撮ってもらった動画は、いまだに私のベスト動画である。その後、サーフィン仲間とトリップに行った際も互いにライディングを撮り合ったが、どうにも良い映像をカメラにおさめることができない。サーファーがカメラを構えても、自分が一刻も早く海に入りたくなって、他人が上手く乗れるまでなど到底待てないのだろう。

 Los Cerritosで気持ち良くサーフィンをした後、その日のうちにロス・カボスから150km北にあるラパスに着いた。ラパスはバハ・カリフォルニア半島南部の主要都市である。内海の穏やかな湾にかかる桟橋から眺める夕焼けが美しい。妻と夕暮れの港町を少し散歩してその日は早めにホテルに戻った。

 翌朝早くにラパスを出発した。スコーピオン・ベイまで約400km。一気に駆け抜ける計画だ。道路の状況は良い。白っぽい大地にタールの一本線が果てしなく続く。アスファルトの両側には、ゴロゴロとした岩の間から真っ直ぐにサボテンが伸びる。いよいよメキシコらしい風景だ。

 ハイウェイ沿いの屋台で昼食休憩を取った。鉄板でグリルした肉を、小さく賽の目状に切ったフレッシュなトマト、微塵切りのタマネギ、パクチーとあわせてトルティーヤ(トウモロコシ粉の薄焼きパン)で包む。ライムを絞るとチリソースがほど良くマイルドになって、ジューシーなタコスが完成する。乾いた喉元でコーラの炭酸が弾ける。美味い。

 スコーピオン・ベイの手前、最後の町らしい町である「シウダ・インスルヘンテス」というところで寝袋を2つ購入した。スコーピオン・ベイにはホテルが殆どなく、キャンプ場のバンガローを借りるかテントを張るかしかない。バンガローには布団がないから寝袋が必要だった。

 最終目的地に向けてシウダ・インスルヘンテスを出発する。残り数十キロのところでスコーピオン・ベイの現地名「San Juanico」の標識に従って舗装道路を外れた。砂利や小石が混じる固い砂の道を進むにつれて、ハンドルを握る手がじわりと湿ってくる。バックミラーにはもうもうと砂煙。対向車も人の気配もない。サボテンのてっぺんから、猛禽類が私たちの通行を見下ろしていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?