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ある週末サーファーの記録037 オカンダ 1

 スリランカの東海岸、アルガンベイ(Arugam Bay)に約1週間のサーフトリップに出かけたのは2012年の夏だった。そこは坂口憲二さんのテレビシリーズの「この夏は忘れない」の最後の目的地だった。強烈な日差しを受けた色鮮やかなビーチの映像が印象的だった。

 このときのトリップはツアーを利用した。飛行機、空港ービーチ間の送迎、ホテルがパッケージになっているものだった。飛行機が到着する首都コロンボは島の西岸にあり、そこから東岸のアルガンベイまで自力で辿り着く自信はなかったし、後で実際のスリランカの交通状況を見て、それは至極真っ当な選択だったと思った。

 ツアーといっても、参加したのは私一人。夕暮れ時のコロンボ空港には二十歳にも満たなそうなスリランカ人の若者二人が唯一のツアー参加者の私を迎えに来ていた。彼らの案内でターミナルから駐車場に移動する。そこに停まっていたのは、夜通し島を横断してアルガンベイに向かう夜行バスならぬ夜行ハイエースだった。ハイエースの後部座席は私用にフラットに倒してくれている。なかなかホスピタリティがある。

 日の落ちた片側一車線の道を東に向かう。若者たちは運転を交代しながら真っ暗な狭い道をひたすら飛ばす。前方を走る車があれば全て追い越すつもりらしい。追い越し中に対向車が来てもスピードを緩めることはない。真夜中のチキンレースだ。しかも、窓を開けながらそれなりに大音量で現地の音楽をかけている。熟睡できるとははなから思っていなかったが、結局ほぼ一睡もできず、明け方アルガンベイに到着した。暴走する青年ドライバーたちはその足でコロンボに戻るという。事故を起こさないことを祈るしかなかった。

 ビーチ横にあるツアー指定のホテルにチェックインしようにも誰もいない。まだ起きてきていないのだろう。荷物はフロントらしきカウンターの横に置いて海に入ることにした。海パンとラッシュガードで入水。30度くらいはありそうなぬるい海水が足を濡らす。砂浜から水に入ると間も無く地面がリーフに変わり、慌ててパドリングに切り替える。

 朝焼け色に染まるアルガンベイには極上のライトブレイクが割れていた。沖では頭サイズくらいのパワフルで速い波、岸寄りはワンサイズ小さい優しい波だ。沖のブレイクまでパドリングで向かうと、ローカルのサーファーがものすごいスピードで速い波を抜けてくる。彼が乗るせり立った透明な波越しに、生まれたての日の光が見える。

 長旅で睡眠も十分ではなかったが、朝一のアルガンベイはさほど混んでおらず、パワフルな波に何本か乗ることができた。到着早々良い波に乗れるなんて、この旅はツイテいる。

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