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ある週末サーファーの記録030 レンボンガン島 3

 レンボンガンからの帰国時、当初思い描いていたような見違えるほどの上達にはほど遠かったが、それでも私もコウスケもパドル力はかなり付いて、少しくらいの大きな波にも怯まなくなっていた。これは大きな成長だった。と、自分たちには言い聞かせていた。

 コウスケから「実は良い波がある穴場らしい、行かないか?」と次の海外サーフトリップに誘われたのは2012年頃だった。タイのプーケット島だという。有名なリゾート地だが、サーフィンができるとは聞いたことがない。
 「いや、今の時期は良いらしい」
 日頃、自己主張はさほど強くない彼にしては推してくる。当時、海外在住だったコウスケとは現地空港集合の約束でプーケットに向かった。

 バンコク経由のタイ航空でプーケットの空港に着いた。オーバーサイズの荷物の受取口からサーフボードを引き取る。空港でサーフボードを担いでいるのは私一人だ。先に着いていたコウスケと合流した。プーケット空港内のサーフボードが2枚になった。

 タクシーに乗って「カタ・ビーチ(Kata Beach)」に向かった。コウスケ「オススメ」のポイントだ。あらかじめこのビーチの隣のホテルも予約してくれていた。

 ホテルに到着。オジサンサーファー2人が泊まるにしてはリゾート感があるやたら豪奢なホテルだ。制服を着たフロントの女性が「コプンカー」と眩しいばかりの笑顔で手を合わせる。微笑みの国に来たことを実感する。他の宿泊客は半分くらいは新婚旅行、残り半分くらいは家族旅行か。サーフボードを持ってチェックインしているのは私たちだけだ。おそらくこのホテルにもボードは2枚だったと思われる。

 荷物を部屋に置いて早速カタ・ビーチに繰り出した。波はあった。見事な風波だ。沖から岸に向かって吹くオンショアの風によってあちらこちらに白い波がシャバシャバと立っている。サーフィンをしている人はいたが、いわゆるガチ勢は皆無。家族旅行でプーケットに来たら、サーフボードをレンタルしていたから借りてみた、という人が数名。

 「あれ〜?」
 ここまでサーファーを見ていなかったから、なんとなく予想していたと思うが、コウスケは一応その種のリアクションはした。午後だったのでオンショアの風が吹いてしまったのかもしれない。明日の朝に期待だ。

 そして、翌朝もやはり海はシャバシャバだった。サイズはモモ〜コシくらい。テイクオフしても、乗れるのは数秒。岸に向かって真っ直ぐにしか走れない。さすがに10回くらいテイクオフすれば「もういいかな」となる。

 カタ・ビーチの水は岸よりの浅い部分はエメラルドグリーン、沖に向かうとコバルトブルーに近づいていく。水は温かく、サラサラの白砂で海水浴には最高のビーチだ。しかし、私たちは海水浴とは違う目的を持っていた。良い波に乗りたいのだ。

 ホテルの近くにサーフツアーを催行している旅行会社があった。藁にもすがる思いで行ってみると、サーフガイドは日本人のお兄さんだった。
 「明日結構波いいっすよ」
 カタ・ビーチとは別のポイントに連れて行ってくれるという。もしかしたら波乗りができるかもしれない。多少期待が高まる。

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