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ある週末サーファーの記録032 レンボンガン島 5 完

 「ショートトリップに行こう」
 どちらから言い出したかは覚えていないが、次の目的地は新島だった。2019年6月頃のことだ。日本国内にもポイントは多々ある。四国、宮崎、種子島、東北。いくつかは行ったが、まだ行っていないところがたくさんある。新島もいつか行ってみたいと思っていた。コウスケも同じ考えだった。

 調布飛行場の小さなカウンターでチェックインをする。小型の飛行機なので荷物に加えて自分の体重も計る。座席の位置は体重次第だ。飛行機は19人乗り。飛行機の内側からロープを引っ張ってドアを閉める。どこか船を港にもやうロープを連想させる。

 調布を飛び立って、プロペラ機は南に進路を取る。東京から神奈川、湘南へ。江ノ島の上を通って本州としばしの別れとなる。私は普段は千葉、茨城でサーフィンをしているが、ごくたまに湘南にお邪魔する。毎回鵠沼のサーファーの数には圧倒されるが、調布から江ノ島まで隙間なく建物が並ぶ光景を見ると「そりゃ混むわ」と思った。

 調布からわずか40分、新島空港に着陸。飛行機から降りたら予約していた民宿の方が迎えに来てくれていた。島の民宿は送迎サービス付きが一般的なようだ。宿に着くとすぐにレンタカーを手配してくれ、軽トラがやってきた。島の車は軽自動車が多い。陸地が限られ道は狭いから、合理的な選択なのだろう。

 軽トラの荷台にショートボード2枚を載せ、早速有名な羽伏浦(はぶしうら)に向かう。車を停めたところから20分近く砂浜を歩いてポイントに着く。羽伏浦の水は独特な色をしている。ビーチのきめの荒い白砂の色が強く、それを受けてか、水は鮮やかなブルーにミントグリーンの色味が入る。日本のサーフポイントでこれまで見たことない色だ。

 海から岸を見れば浜に迫る断崖が壮大な景観を形作る。この水の色、海からの眺めだけでも来た甲斐があると思える。波は岸よりで割れるショアブレイクが中心。長く乗れる波ではない。ただ、この絶好のロケーションでコウスケと2人で貸切。それはそれで贅沢なセッションだった。

 新島には2泊。すなわち、あと2日サーフィンができるはずだった。しかし、何しろコウスケと一緒のトリップで、ことがそんなにうまく運ぶわけがない。翌朝は強風で海はクローズ。最終日は風は収まったが波はなし。おまけに雨まで降ってきた。島滞在3日中、2日間はノーサーフでフィニッシュ。

 島の西側に無料で入れる温泉がある。海にせり出す露天風呂で最高に気持ち良い。島で波乗りできないときの時間潰しはもはや私たち2人の特技ともいえる。最終日も霧雨が降る中、海を眺めながら、ぬるめのお湯に浸かりに浸かった。プールか風呂かの違いはあれど、レンボンガン島でも新島でもやっていることは結局あまり変わらない。

 そろそろ空港に向かう準備をしよう。露天風呂から出て着替えたら携帯に何度も着信が入っていた。宿からだった。悪天候で飛行機が欠航になったという。振り替えの船に乗れるから早く港に行けという。出港まで1時間ない。大急ぎでレンタカーを返して、宿の方に港まで送ってもらった。なんとか出港に間に合った。もう少し露天風呂に浸かっていたら、もう1日新島でふやけていなければならなかったかもしれない。

 こうしてその日の夜、私たちは無事竹芝桟橋に着いた。ちなみに、主人の帰りを待つ私の車は、調布空港の駐車場にあった。

 コウスケとのトリップではそれほど良い波には乗れない。でも、いつもそれなりに楽しい。気心の知れた友達とサーフィン話とバカ話で盛り上がりながら、波を探す数日間はなかなか他のものには変え難い。

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