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ある週末サーファーの記録043 オーシャンシティ 3

 自宅に戻り、あらためてリサーチを始めた。ワシントンから一番近いメリーランドとデラウェアの両州はやはりサーフィンは厳しそうだった。単調な海岸線でブレイクの起点に欠けるからか、サーフィン情報は極めて乏しかった。相当な好条件でなければ良い波は立たないのだろう。

 そんな中、サーフィンガイドブックのThe Worldstormrider Guideをあらためてめくっていると、特にマイナーなポイントが掲載されているVol.3にニュージャージー州の情報があることに気付いた。ニュージャージーといえばもはやニューヨークの隣、ワシントンからはだいぶ離れているイメージがあったのでノーマークだった。ただ、Google Mapを見てみるとニュージャージー州の南部はメリーランドの海に行くのとさほど距離は変わらないように見えた。ワシントン郊外からそこまで最短ルートで300km。3時間強のドライブらしい。

 ニュージャージーに向けて出発したのは年が明けた正月2日だった。目的地はまたも「オーシャンシティ(Ocean City)」。ただし、今回はメリーランド州のではなく、ニュージャージー州南部にある方のオーシャンシティだ。

 ニュージャージーのオーシャンシティには高速と一般道を乗り継いで3時間15分ほどかかって到着した。湾にかかる長い橋を渡った先の海沿いの町には既視感溢れる光景が広がっていた。ボードウォーク、それに沿って立つ夏の店と観覧車が目玉の遊園地。メリーランド州とニュージャージー州に、同じ名前を持つ瓜二つのの町。日本人の私からしたら不思議に思えるが、「州が違いますから。何か問題でも?」とでも言われているような気もする。

 駐車場に車を停めてボードウォークを横切る。風はそれほど吹いていないが、空一面を厚い雲が覆っている。気温は摂氏でいえば一桁台真ん中あたり。数値よりも寒く感じる。

 薄い灰色の砂浜の向こうに鈍色の海が見えた。
 「サーファーだ・・!」
 海上には10人ほどのサーファーがいた。日本を出て2か月、久しぶりに見た「サーフポイント」だった。

 ニュージャージーのオーシャンシティは、海岸侵食の防止のためか、一定間隔で砂浜から海方向に垂直に簡易的な防波堤が延びている。人工的に投入されているその岩の防波堤のせいで、多少遠浅の地形になっているようだった。また、排水用のパイプも沖まで延びており、それを起点としてライトの波が割れていた。長くはないが乗れる波だ。

 4mmのセミドライスーツ、ブーツ、グローブにヘッドキャップ。日本から持ってきたフルの防寒装備で海に入る。アプリによれば水温は7℃前後。今まで経験したことない冷たさだ。

 久しぶりの波乗りとフル装備で体が重い。やはり、日本の装備ではこの水温には長くは耐えられない。それでも鉛色のソリッドな波に乗って、一つ、二つターンをするだけで自然とニヤけてしまう。

 「東海岸でも週末にサーフィンができた・・」
 オーシャンシティからワシントンに帰る3時間半。心地良い疲れと安堵感がハンドルを握る私を包んでいた。

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