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ある週末サーファーの記録034 ザ・パス 2

 クーランガッタから車で1時間弱。バイロン・ベイに到着した。バイロン・ベイにはオーストラリア大陸最東端の岬がある。その岬を先端にして陸地は北向きの緩やかな弧を描く。ただ、「湾」という割には外洋に向かって開け過ぎている気もする。

 海辺に面したその小さな町はガイドブックではヒッピータウンだと紹介されていたが、ウィンドウのあるオシャレな店が屋根付きの歩道に沿って並んでおり、いかにも買い物好きが喜びそうな街並みだった。それがヒッピータウンだと言われたらそれまでだが。

 その町ではまずサーフショップに向かった。オーストラリアはサーフィン産業の本場だ。ボードも安いと聞いていたので、せっかくだから新しいボードで波乗りをして、そのボードを持って帰ろうと思っていた。

 店員にその時点のレベルを自己申告する。次は鋭角なリッピング(波の上部で素早くボードを切り返すターン)を成功させたいと伝え、ボードを見繕ってもらった。
 「これはどうだ?」と勧められたのは6.0(6フィート)の軽くて動きの良さそうなショートボード。買った後で知ったのだが、それはDHDというゴールドコーストのメーカーの板だった。その後幾度もの修理を経ながら、この板は10年近く私のメインボードとして活躍してくれた。

 私の新しいボードにデッキパッドを貼り付けてくれた店員から「ザ・パス(The pass)」に行ったら良いと勧められた。そこがウワサの長い波のポイントだった。

 サーフショップからポイントが見下ろせるウッドデッキの小さな展望スペースに直行した。ザ・パスの全景が見える。幅が十分にある白砂のビーチ。浜に近い部分は「水色」と形容するのが全くふさわしいと思われる海は、沖に向かうと徐々に青の濃さを増していく。騒がしい風は吹いておらず、真夏のオーストラリアの強い日差しが全てのものに等しく降り注いでいた。浜にも遠浅の海にも人はいるが、圧倒的な自然の中では「まばら」である。

 岸側から見て右奥に岩場があり、そこで割れた波が「湾」の緩いカーブに沿って続いて行く。向かって右から左に割れていくライトの波が次から次にやってくる。

 確かに長い。右側の岩場から乗り始めたサーファーたちは、その姿が人差し指ぐらいの大きさになるまでクリーンな一本の波に乗り続けていた。沖で波待ちをしているサーファーの数もスナッパー・ロックスのような非常識なものではなく、どこか緩やかで、平和な空気が流れていた。

 バイロン・ベイには5日ほど滞在する予定だった。

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