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ある週末サーファーの記録018 スコーピオン・ベイ 1

 2010年、私は結婚した。妻はサーフィンはしないが、海は好きだ。砂浜に座って広い海を眺めたり、潮風を感じたりするとリラックスできるという。海からの帰りは気分が良さそうだ。

 私がサーフィンのDVDや動画を見ていると、結構一緒に見たりすることがある。雄大な自然の中で波が割れる風景や優雅なライディングは単純に「綺麗」だという。「ポコポコ・・」という水の中の音も好きだ。私とは着眼点が異なるが、そういうサーフィン映像の楽しみ方もあるものかと思った。

 昔、テレビ東京で坂口憲二がサーフィンをしながら世界を回る番組があった。「この夏は忘れない」というその番組は、坂口さんのしなやかなライディングに加え、世界旅行にマッチする音楽、渋い声のナレーションが印象的なとても素敵な番組だった。その番組内で、彼はメキシコのバハ・カリフォルニアを訪れ、「スコーピオン・ベイ」という伝説のライトブレイクのポイントを目指していた。その映像を見て以来、私の「死ぬまでにやりたいこと」リストに「スコーピオン・ベイに行く」が加わっていた。

 新婚旅行でスコーピオン・ベイに行く、という提案に二つ返事でOKしてくれた妻には本当に感謝している。何しろまったくハネムーン向きのリゾートではないどころか、無事に辿り着けるか不確かな相当の僻地である。妻はありきたりな観光地よりも楽しそうと言ってくれた。ただ、このタイミングを逃すと数十年チャンスがないかもしれない、そんな私の思いを汲んでくれたところもあったのかもしれない。というより、そもそも私と結婚した時点で、こんな新婚旅行になることは想定済みだったのかもしれない。

 2010年10月、まずはバハ・カリフォルニア半島最南端のロス・カボスに入った。ロス・カボスはメキシコの中でも人気が出始めていたビーチリゾートだ。メキシコにはカリブ海側にカンクンという有名なリゾート地があるが、ロス・カボスは町を少し外れると乾いた荒野にサボテンが林立する。カンクンよりもだいぶワイルドなイメージだ。

 ロス・カボスにも素晴らしいサーフスポットがある。短いが形の良いホローな波が割れる「Zippers」。沖から長いメローな波が続く「The Rock」など。これほど空いているクオリティの高いリーフブレイクを前にして、ホテルに留まっているのは勿体ない。せっかく取ったオールインクルーシブのホテルはそこそこに、助手席の妻と良い波を求めてポイントからポイントへウロウロした。

 そんなロス・カボスでの2日間を経て、いよいよスコーピオン・ベイに向けて北上を開始する。過酷な道のりが待っていることは「この夏は忘れない」で予習済みだ。レンタカーはオフロード用にピックアップトラック。小波に備えてロス・カボスのサーフショップで借りたロングボードも積み込んだ。新婚旅行という名の小さな冒険が始まった。

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