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ある週末サーファーの記録038 オカンダ 2

 早朝サーフィンを終えてホテルにチェックイン。午後まで仮眠を取った。熱帯のうだるような暑さが幾分和らいできた夕方近くになって、あらためてアルガンベイのメインポイントに入る。朝と変わらず良い波だったが、かなりの混雑だった。ローカルサーファーや海外からのサーファーが混在し、エキスパートから初心者まで沖から岸沿いまで満遍なく海上が埋められる。アウトに行ってもインサイドに来てものびのびと波乗りするスペースはない。私の滞在中、メインポイントは早朝以外は常にそんな状態だった。

 アルガンベイ滞在の2日目か3日目だったと思う。ホテルに併設されているレストランで早めの夕食を取っている時だった。テラス席から日が傾きかけたビーチが見える。相変わらず多くのサーファーで賑わっている砂浜が何やら騒がしい。一見して外国人らしき白人とローカルの少年の小競り合いが始まったようだった。波取りで揉めたのだろうか。1対1で始まったいわゆるケンカは、瞬く間にお互いの加勢を得て、野球の乱闘のように大きな輪に膨れ上がった。

 乱闘はあっという間に数十人規模に膨れ上がった。特にローカル側のヒートアップは甚だしく、木製の船のオールを外国人サーファーに向かって振り回している者もいる。人数に劣る外国人サーファー側は次第に劣勢になるも、ローカル側の興奮は収まらない。駆け付けた警官が乱闘を止めようと空に向けて銃を発砲。一発撃つと一瞬輪が乱れるがすぐに再形成。何発もの銃声後にようやく解散となった。

 ホテルの従業員に聞くと、おそらくイスラエル人サーファーとローカルボーイズのケンカだろうという。アルガンベイには多くのイスラエル人サーファーが滞在していた。イスラエルにこれほどのサーファーがいたとは驚きだったが、考えてみれば、イスラエルも地中海に面している。もしかしたら、スリランカはイスラエルから一番近い南国のサーフデスティネーションなのかもしれない。

 以前、南米をふらふら旅していた時にイスラエル人のバックパッカーによく出会った。彼らもそうだったが、イスラエルには徴兵制があり、その期間が終了したら長期間世界を旅行しながら兵役の疲れを癒す若者がかなりいると聞いた。

 ホテルの従業員が苦々しい顔で「あいつらはアグレッシブなんだ」とイスラエル人サーファーたちを形容していた。ローカルサーファーとのイザコザもさほど珍しくないという。

 南米の貧乏旅行で道連れになったイスラエル人は穏やかな若者が多かった気がするが、イスラエル人サーファーがなぜアルガンベイでそのような評価を受けているのかは分からなかった。

 軍隊上がりとつい最近まで内戦のさなかにあった村の住人たちのケンカは生ぬるくない。暴力と負のパワーを間近にすると、絶品のスリランカのカレーへの食欲が急にしぼんでいく気がした。

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