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心の扉を開いて(池田瑛紗_前編)

池田瑛紗は、美大で「高嶺の花」として知られていた。彼女はその美しい外見と、卓越した美術センスで周囲を圧倒していたが、その心の奥には、誰にも言えない秘密があった。高校時代に経験した友人からの裏切りが、彼女の心に深い傷を残していた。

そのせいで、瑛紗は他人と深く関わることを避け、慎重に人間関係を築いてきた。自分を守るために心の壁を作り、周りとの距離を保つことが彼女にとっての安全策だった。そんなある日、彼女の前に現れたのが、中西〇〇だった。

〇〇は瑛紗の一学年上で、同じ美術学科の先輩だった。彼は明るく気さくで、いつも誰にでも優しく接していた。特に瑛紗に対しては、彼女が見せない内面に興味を抱いていた。

〇〇「池田さん、今日の課題終わった?」  

授業の後、〇〇が軽い調子で声をかけてきた。

瑛紗「まだ、少し時間がかかりそうです」  

瑛紗は少しだけ緊張しながら答えた。彼に話しかけられるのは嬉しかったが、同時に自分の感情を見透かされるのが怖かった。

〇〇「そっか、俺もちょうど終わったところなんだけど、カフェで休憩しない?一緒にどう?」  

彼の提案に、瑛紗は少し迷ったが、気づけば頷いていた。

カフェで向かい合って座った二人は、自然と美術や日常の話をし始めた。〇〇のフランクな話し方と優しい笑顔に、瑛紗は次第に心を開いていった。

瑛紗「〇〇先輩って、どうして美大に入ろうと思ったんですか?」  

彼女がそう尋ねると、〇〇は少し考えてから答えた。

〇〇「俺はね、表現することが好きなんだ。絵を描くことで、自分の感じたことや考えを伝えられる。それが楽しくてね。でも、池田さんの絵にはもっと深いものを感じるよ。何か、心の奥から湧き出てくるような」

その言葉に、瑛紗の胸がドキリとした。彼にそう言われるのは初めてだった。彼が自分の内面を理解してくれているような気がして、心が温かくなった。

瑛紗「そんなふうに思ってくれて、ありがとうございます。でも、私は…実は、あまり人に心を開くのが得意じゃなくて」

〇〇「そうなんだ。無理にとは言わないけど、俺は瑛紗ちゃんのこと、もっと知りたいと思ってる」

その言葉に、彼女は驚いた。彼が「瑛紗ちゃん」と呼んでくれたことが、妙に嬉しかったのだ。

瑛紗「…いつか、話せる時が来るかもしれません」  

瑛紗は少し照れながらも、心の中で彼に対しての好意が芽生え始めているのを感じた。




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