俳句・自詠
末黒野や何も囲んでをらぬ柵
冬草の青々としてつよさかな
鉛筆の芯とがらせて初仕事
青嵐しばし写生の手を止める
引鶴の右翼左翼のたしかさよ
遅き日やちょうどの小銭持つて出る
立て掛けてある竹馬の奇数なり
闘牛の頭を低う〱下げ
菩提子をひとつ拾えばひとつ落ち
濁り鮒土跳ね上げてのぼるなり
キッチンにごとりと生姜酒の瓶
笑ひ声してよく抜けて冬木立
雁帰るじき故郷の空となる
終電も始発も聞きて夜なべかな
寒鰤の漁港の雨を跳ね返し
荷を背負ひ直して進み冬ざるる
ガスコンロ一口古茶の湯を沸かす
時々は秋雨に手を出してみる
コピー紙に文月の虫の潰れあり
空は星月夜どこまで進んでも
立秋の文字の上から予定書く
星月夜二人して輪を離れけり
降ると言ひ降らぬ一ㇳ日や濁り鮒
川底と川面つらぬき水草生ふ
水仙と家族写真と並べけり
雀らの押されて発てる黍嵐
冬木立つ庭に全き日の光
生姜酒たまの親子の会話かな
冬服を丸めて畳みたりと言ふ
負鶏を洗ふ流るゝものいろいろ
水仙を活けて書きだすラブレター
親鹿のうしろを子鹿わらわらと
鴨の着く鴨を運びし風も着く
正月や老婆一人のまもる家
朝風の土を撫でゆく芒種なり
指揃へ蝌蚪一匹を掬ひ出す
申し訳程度の木にも蝉のゐて
数行を書きて削りて避寒かな
ゆく春や更地となりしパチンコ屋
腰かけて冷たき椅子や事務始
みどり濃く〱して雨後のレタス畑
丹念に子芋ひとつの土拭ふ
一村を守る山なり木の実植う
どの晩も白菜ばかり寮の鍋
人質のごと白菜を抱へけり
スーパーに入つて出でて暮早し
ラーメン屋白菜漬は無料なり
埋まりたるクロスワードの縦涼し
旅立ちに見送りのなき残暑かな
上京の意志冬草の野に立てば
霾りてパンダの白の汚れたり
暮早く用事をひとつ諦める
ただ一人背中丸めて蜆汁
風光るコンビニ飯を芝の上
立ち上がるとき茸籠の重さかな
初旅の土産のなくて戻りけり
冬ざれに工場の煙細々と
箱に腰掛けて子芋を外しをり
葱汁を病の小さき口幅に
冬ざれや鳥の降り来てすぐに発ち
闘牛のどかと倒れぬ砂埃
袋掛足元に子を纏わせて
わづかなる塵を掃くなり初箒
見守られつつ生姜酒飲み終へる
ストーブを囲んで椅子や休憩所
避寒地やみじかき坂を下りて海
冬うらら手押し車に花挿して
芝焼を終へたり皆で呆けたり
ぱきぱきと首を鳴らして夜仕事
引鶴の発たねばならぬさむさかな
停留所多き都会の寒さかな
袋角露わに育つ恥づかしさ
公魚を五人で釣りて穴五つ
山笑ふなり山頂にうすく雲
スタメンに団扇で風を送りやる
宿浴衣着なれて少しやはらかし
鶺鴒や陽の当たりたる橋の上
買初のものに大げさなる袋
一枚を大きく欠ぎて萵苣を食ふ
薫風や親はベンチに親どうし
公魚のずしりと重きレジ袋
北風に牛乳受の吹き曝し
夕立や誰にも言へぬこともあり
雪合戦ふいに休まる時のあり
夏雲に突っ込んで行く一両目
前を行く子の誇らしく茸籠
永き日やカフェで二十句作りをり
雨蛙鳴きたる喉のうねりかな
夏山や昨日の罠に獲物あり
団扇には進学塾の煽り文
あかるさや涅槃図掲げあるあたり
避寒宿去るや振り向くこともなく
若駒や蹴り上げし土身にかぶり
かき氷スプーン縦にさし入れる
寒雀群れてついばむものそれ〲
ぼんやりと飯食つてゐる寝正月
置物のごとき鹿の子の動きけり
虫籠の蝌蚪直角を曲がりけり
囀を見上げればみな去りにけり
手荷物も土産もなくて鳥帰る
前籠の落葉そのままこぎ出せり
「ん」「んん」で会話してゐる残暑かな
大坂を登りきつたる雲の峰
火を放ちたるより風の野火となる
秋黴雨軒下のもの干し通し
寝床はや整へてあり生姜酒
かまくらの入口に沓揃へある
処方箋薬局の前あざみ咲く
初旅や小さき鞄ひとつきり
夏痩の肩に食い込みおんぶ紐
年の暮心に辞意を隠しけり
掌の窪みに蝌蚪のなほ跳ねて
田に面し自販機のあり雲の峰
星月夜仰ぎ地球の円きこと
溺れさせては引揚げて梅雨の靴
病人の傍らに寝る夜長かな
闘鶏の跳んで短く羽音かな
挨拶のときはマスクを少し下げ
雨を負ひ負ひては春の鹿がゆく
一茶忌やかなしきことを笑ひたり
独りきりの老婆の家に夏の来る
隣人も部屋にをるらし梅雨に入る
快晴や通る人なき海苔干場
良き日あり良からぬ日あり春夕焼
夏の夜や父が焼酎つくる音
夜なべして母の寝顔を知りにけり
悴むやまた出さざりしTカード
青蜜柑ちょうど手の届かぬあたり
公魚を釣り針先にすこし
春寒のパンダ身近に笹を積み
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