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記事一覧

釈放

何もない というわけじゃない けれど じゅうぶん生きていける というだけの 退屈な街だ 空のままならよかった 誰かが愛してくれたかもしれない 腐ってても平気な顔で食える それなりに満たされた街から どうか釈放して下さい 何もない というわけじゃない けれど じゅうぶん生きていける というだけの 退屈な心だ 空のままならよかった 誰かが愛してくれたかもしれない 要らなくても平気な顔で懐に入れる ガラクタばかり詰め込んだ心から どうか釈放して下さい 毎日誰かが死んでいく (歩

続・得体

「いっていい?」 とあなたが囁いたとき 繋がったまま離れていく気がした 「いいよ」 と言うしかないじゃない なんにもよくない 待って、と言ったら 待ってくれるの? やわらかくてなまぬるいあれが シーツの上に置き去り 忘れないようにね 「痛い」 と悶えるときのその痛みを 欲にまみれた左手を突っ込んで あなたの体で分かってよ どんな形でどんな色 どんな硬さでどんな音 分からないから 分からないや 吸い付いた舌のその奥にある 得体の知れない何かに触ってほしかった せっかく入っ

前夜

なぜか涙がこぼれた穏やかな昼も インタビューの受け答えを妄想して眠りについた夜中も 結局だらだらして終わった日曜も 確かにここにあるのに言葉にできなかった苦しみも いつの間にか増えてるほくろを見つめた朝も 毎日立ち読みに通い詰めた一人きりの夏休みも こんな毎日がいつまで続くのかなあなんて思った夜も 一人で生きていけることを疑わなかった春も 意味や理由ばかり探してやり過した五限も スナック菓子を食べながらテレビを眺めた土曜も いつかここを抜け出せたら 「あの頃は」なんて言っち

晦日

各停しか停まらない君の駅まで 十一枚綴りの回数券を買う 番号どおりに使っていく 二枚ずつ減っていく これを全部使いきるまで 君の恋人でいられるだろうか 各停しか停まらない君の駅まで 十一枚綴りの回数券を買う 番号どおり使っていく 最後の一枚を行きで使って もう帰りたくないなあ なんてね 昨日洗って乾かした安全靴 上はTシャツ下は作業着 ズボンのチャックを上げながら 慌ただしく部屋を出る 帰らなきゃ 労働時間十時間 電車に揺られて往復二時間 君といられるのは一時間 週末な

生活

ああもう駄目だ死にたい 今日こそほんとに死にたい 明日日直だけど死にたい シフトまだ入ってるけど死にたい 帰りがけにもらった ポケットの菓子 親を悲しませても死にたい 友達もいるにはいる死にたい 何もかも面倒だ死にたい 未来なんて億劫だ死にたい 今日の夕飯が おいしい できることなら死にたい そんなことより死にたい 大丈夫じゃねえよ死にたい 寿命が遠い死にたい 来週 久しぶりに会おうよ 夢はあるけど死にたい それが理由だ死にたい 痛くないなら死にたい ぱっと消され

回遊

張り裂けそうなリュックサック タオルばっかり詰め込んで 麦茶の入ったペットボトル 向こうで捨てておいでと母が言う ラップで包んだおにぎり二つ 中で食べようなんて考えてる シャワーを浴びて火照った体で 終りかけの今日にまた飛び出して 夜のバスターミナルに 今日の残りかすが沈んでる ××行き三号車 預けるまでもない荷物 夢の途中で息を切らして どこかへ行きたいだけなんだ 網ポケットに丸めたラップ おさまりの悪い充電器 無言でバスが動き出す 知りすぎた街を置いていく スニーカー

道化

へらへら笑ってろ 世界はあまりにも広すぎるから へらへら笑ってろ 変化に合わせるのは面倒だから へらへら笑ってろ 今はあまりにも長すぎるから へらへら笑ってろ 笑顔は誰も傷つけないから 笑って笑って ほうら なんていい笑顔 大丈夫 ちゃんと本物に見えてる また夜が明けるぜ いよいよ出番だぜ みんなが待ってるぜ さあさあ今日も 馬鹿やるぜ ショーを終えた道化師は 路地を選んで楽屋へ帰る 重い被り物をそっと脱ぎ つるりんとした人の顔 泣いたり抱いたり踊ったり怒ったり叫んだ

仮死

タイムカード、出勤 いや 分かってるんだよ 死ななきゃいけないワケくらい 誰だって ライフが尽きたら死ぬもんだ それが当たりまえ仕方のないこと でも ふとした瞬間 長方形の暗闇の中に一日を閉じ込めるときなんかに 思う なんで毎日死ななきゃならない ずっと生きていたいのに 眠ってるときのほうが よっぽど生きてる いや 分かってるんだよ 死ななきゃいけないワケくらい ここから武器は自己調達 借り物ってわけにはいかない でも ふとした瞬間 お面の内側が蒸れてきたと

獄楽

地獄の標高から見下ろして 天国に続く穴を掘る 地獄はわりと楽しい 天国はときに苦しい そっちに向かって手を振ってるから よかったら