闘病記 day52

 今日は停電がある。

 だから昼はお弁当だと聞かされていたのだが、午前のリハビリまでまるごと病棟で行うことになった。

 自分が寝ているベッドで訓練をすると、おかしな感じがする。隣のベッドの人がじっと見ているのに耐えかねて移動するも、デイルームしか空いていない。その間にも、違う訓練をしている人の興味深そうな目線が向けられる。

 お手玉を掴んでバケツに落としたり、麻痺側の腕を大きく上げたりする横を、歩行訓練の人と訓練士さんが通りすぎていく。普段の訓練場所は分かれているから、視覚的に面白い。車椅子でしか見たことのない人が杖をついている目新しさに、目でついつい追ってしまって、作業療法士さんに苦笑されてしまった。

 やっていることそのものは、簡単なことだ。腕を曲げ伸ばししたり、物を掴んで離したりする。それが、麻痺している手足には「出来るようになりたいこと」であるだけなのだ。頭はやり方を知っているし、何十年もやってきたが、その部位に脳からの指令が届かないだけである。でも、はたから見ると、簡単なことを大変そうに、ぎこちなく繰り返しているように見えることだろう。

 お昼は仕出しのお弁当で、生姜焼きだった。院内の減塩メニューに慣れた舌がはっきりと「塩辛い」と感じたのが分かった。それなりに美味しかったはずなのに満足はなかった。罰当たりなものだ。
 袋の割り箸とパックのお茶のストローが大敵だった。こんなに固かっただろうか。誰も手伝ってくれない。この箸を落としたら食べるものがないから、とても緊張した。現実世界に戻れば、こんなことが山ほどあるだろう。右手が動くまでここを出るまい、と思わず思った。そんな弱気ではいけないのだろうけども。

 午後の歩行訓練は、廊下しか出来るところがないので、全員がそこで行った。眺めて面白がる暇は勿論なく、何度か往復して終了した。

 世間様は三連休だが、我々には休みはない。365日、1日たりとも休まずに続けるのである。

 健康な方々は、どうぞゆっくりとお過ごし下さい。

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