寿命と天命ということ。

 私は去年、脳腫瘍という大病を患った。

 死ぬかもしれないからと延命措置を希望するかどうかを訊かれて、常日頃から自分がこの世から居なくなることに対して何の疑問も抱いていなかったことを知った。

 どこかで自分は短命だと思っていて、あたかも決められた長さを知っているかのように生きてきたとその時初めて気がついたのだ。

 私は大学の時に恩師を亡くしている。享年53歳、がんの闘病中だったことを初めて知った。

 前の職場に勤めていた時に、従姉を亡くした。彼女も53歳だった。

 知らないうちに自分の前にも53と書かれたゴールテープを張ろうとしていたのだと気づく。

 ああ、そうだったのか。

 だから倒れた時に来るものが来た気持ちになったのだ。予め分かっていたかのように自分が落ち着いていられたのもその思い込みのお陰だろう。

 ストンと腹落ちしたままでぼんやりと宙を見ていた。Spotifyで軽快な音楽が流れていた。

 人の寿命はそれぞれ違う。自分がいつこの世に別れを告げるかはまだ分からない。知らない。

 それでいいのだ。

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