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-Trail Making Testについて‐

-Trail Making Testについて‐
【概要】
・TMTは元々Army individual test batteryの一部で、注意の選択性や転換性を評価する尺度として用いられている。
・注意機能の検査法としての信頼性と妥当性がすでに報告されている。
・繰り返しの効果が少ないこと、MRIイメージングやNIRSにより前頭葉に活動がみられるとの報告がされている。
・必要とされる要素は視覚的概念能力、認知的柔軟性、構え転換、序列化能力、視覚-運動の連続性、視覚-空間機能、注意機能となっている。
【適応外】
・半側空間無視→空間にバイアスが生じている
・失語、数唱低下、復唱障害→言語性ワーキングメモリなどの低下
※上記原因などにより適切な評価とならない可能性あり。(行っても良い)


【準備する物】
・時間測定:ストップウォッチ等
・えんぴつ
・検査用紙:TMT-J
記入用紙、A練習、A本番、B練習、B本番※説明用の裏紙

【実施要領】
・数字を1~25まで順番に結んでい<Aと数字と五十音を交互に結んでい<Bの2つの課題からなる
それぞれ練習→本番で実施。
・同一の被験者に繰り返し実施する際にはセットを交互に変えて実施する。セットは同一にし、崩した使い方をしてはならない

*TMT-A
【教示方法】
「はじめとかいてある①から順番に終わりと書いてある数字まで鉛筆で線を引きながら結んでください。
(1~4まで順に読み上げながらたどる)。線を引くとき、最初から最後まで、鉛筆の先を紙から離さないで下さい。手の下に隠れている数字が見づらいときにはこのように(手本を見せる)手を挙げても構いませんが、鉛筆の先は紙から離さないで下さい。それではできるだけ速くはじめから終わりまで順番に結んで下さい。※鉛筆の先を①に置いた時点から時間計測を開始」
※紙に書いて説明すると良い。

【TMT-Aの評価内容】
主として注意の選択性、持続性を評価する。
視覚機能:視空間認知機能、目と手の協調性、視野、視力注意機能:持続性、選択性

*TMT-B
【教示方法】
「はじめとかいてある①から、数字と五十音を交互に鉛筆で線を引きながら結んでください。(検査者が1ーあー2ーいの順に読み上げながらたどる)。線を引くとき、最初から最後まで、鉛筆の先を紙から離さないで下さい。手の下に隠れている数字が見づらいときにはこのように(手本を見せる)手を挙げても構いませんが、鉛筆の先は紙から離さないで下さい。それではできるだけ速くはじめから終わりまで順番に結んで下さい。※鉛筆の先を①に置いた時点から時間計測を開始」
※紙に書いて説明すると良い。

【評価内容】
主として注意の転導性および容量を評価する。
視覚機能:視空間認知機能、目と手の協調性、視野、視力
注意機能:持続性、選択性、転換性、分配性、ワーキングメモリ(中央実行系)

【評価結果から考えられること】
・時間が掛かる→注意機能・視覚認知機能の低下、遂行機能障害、構成障害などによる影響
鉛筆を離してしまう→容量性・持続性・配分性注意機能、ワーキングメモリの影響など
間違える(誤反応)→持続性・選択性・配分性注意機能、ワーキングメモリの影響など
よそ見→選択性・持続性注意障害など
途中で何をしているのか分からなくなる→遂行機能障害、ワーキングメモリ、注意障害、短期記憶低下など
・急いでしまう→ペーシング障害(抑制)など
TMT比が大きい→配分性、転換性注意機能、ワーキングメモリ低下、失語症などによる言語性ワーキングメモリ低下や数唱・復唱障害による文字認識機能障害
※上記の原因だけではなく、環境や個人因子、意欲なども合わせてその都度考えていくことが大切です。

*検査者の注意点*〇鉛筆離し
・えんぴつは一度付けたら最後まで離さない。離した場合は回数を記載。
・離した直後に、「最初から最後まで紙から鉛筆を離さないで下さい。」と教示する。
※誤った順番を修正する際の鉛筆離しは含まない。


〇誤反応
・間違えた場合、即座に指摘して誤反応を記載する。(1→5など)
「1つ戻ってもう一度よく見て、正確な順で結んで下さい」と教示する。
※検査者が指摘する前に自身で気づいた場合、誤反応としてカウントしない

〇書き方にこだわりを示した場合
「時間を測定していますので、たどる順序がわかれば結構です。線の引き方は問いません」と教示をする。
計測は秒単位でよい


〇用紙の固定
被検者や検査者が押さえるか、テープで固定する。


*中止基準*
・課題の理解が難しいか、検査開始後に途中で先に進めなくなるか、あまりに時間がかかるかによって中止せざるを得ない場合が想定される。
・検査者の判断で、A,Bともに終了するまで時間をかけて実施しても構わない。
A:180秒で中止しても良い
B:300秒で中止しても良い
【文献からの参考】
・Toyokuraら)A,Bどちらも施行時間は左右手で差を認めなかった。非利き手でも同等に扱って良い可能性が示唆される。
・豊倉ら)年齢群間で有意差を認めたが後期高齢者で同様の結果になるかは明らかではない。
・豊倉ら)TMT施行の認知過程に要する時間は個人差が大きく、課題終了までの総時間はこのプロセスで概ね規定されることを示した。
・鹿島ら)TMT比(A/B)は年齢に関係しないと報告している。
・3)TMTは注意機能の中でも維持機能を最も反映することが示唆される。
・4)TMT比が1・5を越えるときは配分性注意障害を疑う。
・石合ら)TMT-Bの誤反応は実生活上の問題点の対応でも重要視される。

【自動車運転との関係】
・6)TMT-B180秒以上の場合、自動車運転は控え、時間を置き再検査することが妥当だと考えられる。
・TMT-A47119秒
・TMT-B133225秒

【転倒との関係】
・塩見ら、村田ら)TMT-Aの所要時間は転倒群で有意に高い。
・下田ら)TMT-BとST歩行時間DT歩行の変化率には相関があり、転倒には配分性注意機能が関わっている。

【注意機能と復職】
・8)Leungら)受傷前の職業と並んで、注意機能が脳損傷患者の就労の成否を予測するために重要である。

【認知機能との関連】
・岩瀬ら)TMT-Aの所要時間が5分未満の被験者はそのすべてがMMSE24点以上であった。
5分以上の者はその多くがMMSE23点以下であった。
このことからMMSEと相関関係がある可能性が示唆される。
・児玉ら)TMT-Bにおいて、認知機能正常群は平均167・6秒だったのに対し、MCI疑いは190・5秒、認知症者は300秒と正常群は有意に速かった。
・上城ら)TMT-Aにおいて正常群は114秒であり、認知症疑いでは183・2秒であった。

【成績と脳活動】
・大槻美佳ら)BはAよりも作動記憶の中央実行系に大きな負荷がかかる。
・Arbuthnottら)TMT-B所要時間と複数の課題を処理する能力の間に優位な関連性があり、ワーキングメモリの中央実行系の能力を表す可能性を示唆。
・Sanchez-Cubilloら)TMT-B完遂時間からTMT-A完遂時間を引いた値(△TMT)はワーキングメモリ機能を示す。
・9)動作を観察した後の運動パフォーマンスがワーキングメモリと関連する。
・鹿島ら)前頭葉損傷群は転換が必要なBで所要時間が長く、AとBの差が大きい。
・Coffeyら)TMTの成績が不良なほど大脳半球の萎縮および脳室の拡大が認められた。
・10)先行研究においてTMT施行中は両側の前頭前野が賦活化していること、左脳が賦活化している報告が見受けられるが、NIRSを用いた本研究では左側のoxy-Hbが優位に高値であった。
・10)安静時課題施行のTMT時間に比べ、運動時のTMT時間が有意に短縮した。
このことから、運動中に前頭前野のoxy-Hbが増加しているという結果がTMTの向上に関与している。
・11)しかしこの効果は動脈硬化が疑われるCOPD患者、低酸素脳症によりoxy-Hbの増加が少なく効果が少ないことが示唆される。
・13)TMTと灰白質量には負の相関関係がみられた。
・14)動脈硬化は課題遂行や情報処理を司る左上縦束における白質病変の容量と関連している。
これはTMT-Bと関連している。

*まとめ*
・TMT-Bではワーキングメモリの中央実行系の機能が評価できる
・TMTは前頭葉機能と関連性があり、損傷があるとBで時間がかかる。
・成績が低いほど脳の萎縮が大きい。
・TMTはその他の神経心理学的検査や認知機能と相関する。
・注意機能は自動車運転や復職、複数作業の同時並行能力と関連があり日常生活や社会生活で重要。
・利き手でも非利き手でも問題は少ない

17))
①正常反応:A=40秒以下、B=91秒以下、合計で110秒未満
(高齢者には年齢に合わせた標準を使用する)
②B/A比率は相対的な反応を示しており、比率が2未満であればBにおける好成績を示唆する。
※比率が3を超えるとBの反応障害を示唆している。
これは、ほとんど常に試行Bの言語的内容あるいは数字と文字の切り替えのいずれかによるものである。
③言語的内容(アルファベットなど)を十分習得していないことに起因するBでの障害は、優位半球に関する以前からの障害を示唆していることがある。
④絶対標準の観点から考えて試行Aでの好成績が過剰学習されたアルファベット能力を伴うときに、B/A比率が3以上の場合は試行Aの別の要求(課題切り替え)のためであることを示唆している。
この場合は優位半球の前頭領域前方の機能障害を示している。
⑤試行Aにおける低成績はカットオフを超える時間と1.5未満の比率により示されるが、これは一般に運動速度の障害によるものである。指たたき検査やほかの運動速度検査と比較することで確認できる。
運動速度が正常なら、視覚走査(視覚探索)が障害を受けていることが多い。
このような走査は、右半球後方の空間障害あるいは前頭葉障害にみられることのある視野の分析に制約があることを表していることがある。
⑥数字への気づき、簡単な計算が不良な場合、検査を遂行できないことがある。
これは、優位半球後方の障害である可能性があり、その障害が比較的最近のことであるか、中等度か重度の精神遅滞のような長期的な認知障害を表している可能性がある。
⑦試行A・B両方の平均から2標準偏差離れている結果は
数字への気づきの低下、全般的な認知障害、重度運動障害、視覚走査障害、記憶障害、課題の理解障害を示している。
⑧TMT-Bが好成績であれば、非常に微細な障害が見落とされる可能性がある。
⑨脳損傷者は非脳損傷者よりも緩慢であり、緩慢さは損傷の重症度により増大する。
⑩TMT-A,Bともに認知症における進行性の認知機能低下に鋭敏である。
Aだけは健常群から認知症者を識別することが示されている。
⑪遂行中の誤りは重要な情報である。
⑫情動障害患者は健常者よりも成績が低下する傾向がある。
抑うつ:TMT-Bで緩慢さを認める。
⑬TMTが正常な場合で他の検査バッテリーにて障害を示す場合
・ハルステットカテゴリー検査と触覚動作性検査での障害:視覚-空間要素に障害があることを示す。
・WCSTでの障害:検査の意図を理解することに障害があることを示す。
・上記両者において障害がみられる場合:視覚性遂行能力の障害を示唆し、右半球前方の損傷を示す。
⇒このような場合、非言語的方法でWCSTを解こうとする。
⑭TMTが正常で別検査が障害を示唆する場合
・WCST、ストループ検査、統制発語連合検査、TMT-Bでの障害:ハルステットカテゴリー検査と触覚動作性検査が正常である場合、言語遂行能力を扱うことの障害を示す。左半球前方への損傷を表す。
・ストループ検査、統制発語連合検査、TMT-Bでの障害:ハルステットカテゴリー検査、WCST、触覚動作性検査が正常な所見は言語的素材に対する柔軟性の低下に関連する特異的な言語的分析の障害を示す。


【参考文献】
1)注意障害の臨床一豊倉穣
2)注意障害と前頭葉損傷ー鹿島晴雄
3)地域在住高齢者におけるTrailmakingtest施行時の脳循環動態一村田ら
4)高次脳機能障害に対する理学療法一杉本論
5)情報処理速度に関する簡便な認知機能検査の加齢変化脳と精神の医学一豊倉穣
6)軽症脳梗塞患者におけるTrailmakingtest日本版(TMT-J)スコアの経時的変化
7)虚弱高齢者における二重課題条件下での歩行時間と注意機能の関係ー地域在住高齢者における検討ー下田ら
8)高次脳機能障害者の就労と神経心理学的検査との関係一判別分析を用いた検討ー澤田ら
9)短期的な観察学習効果とその基盤となりうるワーキングメモリの影響の検討ー川崎ら
10)運動中の脳血流の増加と注意機能の関係ー織田ら
11)慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の運動に伴う注意機能の改善と頚動脈内膜中膜厚の関係ー小林茂
12)立位姿勢が高次脳機能課題とペグボード作業効率へ及ぼす影響ー東條秀則ら
13)軽度認知障害を有する高齢者における灰白質容量と遂行機能は関連するのか?一堤元ら
14)地域在住高齢者における動脈硬化と領域特異的認知機能の関連一杉本ら
15)地域在住高齢者の認知機能と身体機能および注意機能との関係一認知機能正常群と軽度認知障害
(MCI)疑い群との比較一八谷ら
16)TMT-Jマニュアルー日本高次脳機能障害学会
17)高次脳機能検査の解釈過程,知能、感覚-運動、言語、学力、遂行、記憶、注意,  -櫻井 正人, 訳

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