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「Night Diver」

三浦春馬

作詞:辻村有記

作曲:辻村有記


毎週世界の素敵なものを紹介してくれる番組を見ていた私でも、失ってしまった感覚を持つのだから、近くにいた人、親類や友達、ファンの方、関わった全ての人の気持ちを思うと、なんだか言葉にしちゃいけないようなものがそこにはあって。書いちゃいけないような気がしながら、これを書いているのですが。

「Night Diver」という曲を何度も何度も聴いているうちに、

はじめは三浦春馬さんと重なってしまう部分が多くあってなんだか辛くて悲しい曲のイメージで聴いていたけれど、ある日ふと、何度も何度も聴いているうちにパジャマ姿の小さな男の子が夜の海の中を潜って行く映像が浮かんで。

イメージとしては「星の王子さま」のような。

そのイメージをどうしても逃したくなくて、連日もう何十回再生して聴いて自分の中に生まれたイメージを一生懸命追いかけて。

そうして一つの物語がうまれて。

その物語を書き上げてから聴く「Night Diver」は私にとってとても優しい世界になって、励ましてくれるあたたかい言葉に思えて。

それは、自ら命を絶ってしまった取り残された彼のイメージよりも

今まで生きてきた優しい笑顔の三浦さんを思い出せる気持ちに勝手になって。

彼が努力してきたこと、作品、周りの人々に優しくしてきたこと、人々が持つべきイメージなのではないかとものすごく腑に落ちて。

私のみた、優しい世界を物語としてシナリオという形でここにひっそりとのせようと思います。

これを読んだ人に同じ気持ちになってもらいたいからではなく、ただ、色々な思いがある中でこういう解釈もできるんだって誰かの視野を広げられれば、引っ込めておくよりもひっそりと置いておこうと思ったのです。

Night Diverの歌詞を伏線のように集めて紡いだ物語です。


「Night Diver」

                        KURO

誰にだって深い海に沈んで行くような、悩んだり苦しかったりする夜はあって。そんな風に私たちが夜の深い海に沈んでいくとき、彼はナイトダイバーとして私たちの目の前に現れては、現実の方へ浮かべる手伝いをしてくれるのではないかと。
この曲を聴いているとどうもそんな気がしてならないのです。


パジャマ姿の男の子が夜の海を静かに潜っていく。
そんなお話。
「この深い夜の海の底に僕の体は眠ってる。他の人が沈んでこないように、僕が守るよ」


◯ビルの屋上
   宇宙飛行士がかぶるようなヘルメットを被って、青色に星の絵の描か                                 れたパジャマを着た10歳くらいの男の子、ハルと毛むくじゃらで 

   ヘルメットを被った犬のモモは高いビルの屋上に立っている。
   雲がかかっていた大きな月が顔を出すと月の光が広がる。
ハル「時間だ」
   ハルがそう言うと、夜の世界がぐるりと回って、夜空が下に街が上に

   なり世界が反転する。
   上になった街から雨が降ると海のように水がはられ、夜の海ができ 

   る。海の中には星や月が漂い、魚が泳いでいる。
ハル「行こうか、モモ」
モモ「ワン!」
   ハルはそう言うとくるりと背中を向けて楽しげに後ろから夜の海の中

   へダイブする。
   モモと呼ばれた毛むくじゃらの犬はその場をくるくると回るとハルを

   追いかけるように夜の海にダイブしていく。

◯夜の海の中
   海の中は、水面の近くは月や星や惑星が散らばり青く明るい。
   海底の方は黒く静かで、魚も惑星も何もない。
ハル「えっと、今日は637番、方角は南西の方か」
   ハルは腕時計のような変わった機械で場所を確認する。
   腕時計を見ていたハルは目の前をかすめていく魚にぶつかりそうにな

   る。
ハル「おっとごめんよ」
ピンクの魚「気をつけてよ。記憶がこぼれたらどうするの」
ハル「ごめんって。そうだこれをどうぞ」
   ハルは無邪気な笑顔でポケットから色とりどりの音符を取り出し、ま

   るで餌をあげるように魚の前に放つ。
ピンクの魚「音符だ!」
   ピンクの魚は大喜びで音符を食べる。
   そこに他の魚も集まってくる。
青い魚「僕にも」
黄色い魚「私にも」
ハル「わああ!」
   ハルは魚たちに囲まれ楽しそうに笑う。
モモ「おい、ハル。遊んでないでいくぞ。今日のお客が待ってるだろう」
ハル「ごめん、ごめん」
   現実の世界では可愛く吠えていたモモは、夜の海の中ではおじさんの

   声になる。
ハル「じゃあね、またね」
   音符に群がる魚たちに丁寧に挨拶して手を振ると先を泳いでいくモモ

   を追いかけるハル。
ハル「モモ怒ってる?」
   モモの顔を覗き込むハル。
   モモは何も言わずにハルの方をちらりと見る。
モモ「お前なあ。音符はお客のために使う大事な商売道具だぞ。あんなところでほいほいばらまいていいものじゃないんだから」
ハル「ごめんって。でも、きっといい夢が見れるよ」
   魚たちの方を見るハル。
   ハルからもらった音符を食べた魚が勢いよく泳ぎだし、歌い出す。
   水面に魚が跳ねると魚たちが作った水しぶきがキラキラ光りだし、

   その光が飛び散って街の方に広がっていく。
   光はベッドで眠る子供の頭の中に入っていくと記憶が夢とな
   ってその子の頭の中に入っていく。
   子供は微笑んで眠る。
   別の光は音を刻みながら跳ね、夜の街を風のようにかけていく。
   光がたどり着いたのは、ベッドでうずくまりながら携帯をい
   じる女性、高梨リコ。

◯リコの家(夜)
   ベッドにうずくまってメッセージを作成しているリコ。
   手元の携帯から見えるメッセージの内容と宛名。
『井上主任
先日は、大変ご迷惑をおかけ致しました。以後、このようなことのないように…』
   そう打っている手を止めて、苛立つように「あーもう!」と声を
   あげると文章を全て消していく。
   携帯を枕元に置いて目を瞑るが、しばらくして気になって携帯に手
   を伸ばす。
リコ「ダメだ」
   伸ばした携帯を持って、離れた机に置きにいく。
   携帯の画面を机に伏せて、その上に近くに飾ってあった小さいくまの

   ぬいぐるみを乗せると振り返ることなくベッドに潜り込み、背中を向

   けたまま眠りにつく。

◯夜の海の中
   パジャマ姿のリコは水の中で「プハッ」と大きく息を吐き出す。
   すると空気が泡となってブクブクと明るい水面に向かって上がってい

   く。
   海面と自分をつなぐ金色に光る綱を邪魔そうに引っ張るリコ。
   取れない綱を握りしめて、あたりを見渡す。
リコ声『ここは…海?』
   青い海の中で静かに泳ぐ魚や小さな惑星を眺める。
ハル「こんばんは」
   後ろからひょっこり現れたハルに驚き泡を吐き出すリコ。
リコ「ぶはっ」
ハル「何も言わなくて大丈夫。水の中だから言葉は出ない
よ。僕はナイトダイバー。彼は相棒のモモです」
モモ「よう、元気かい」
   おじさん臭く喋る犬に怪訝な顔をするリコ。
ハル「大丈夫。不安なら僕が手を繋いでてあげる。だから行きましょう」
   差し出されたハルの手とヘルメットの中で優しく笑うハルの顔を見
   るリコ。
   リコはハルの手を握り、首をかしげる。
ハル「この海に沈めてしまったあなたの言葉を探しに行かなきゃ」
   ハルに手を引かれて海の中を泳いでいく。
   不思議そうにあたりを見渡すリコ。
   ハルは一つの惑星に近づくと、そこはリコの会社そっくりの世界に
   たどり着く。
リコ声『会社…?』
   机の引き出しがガタガタと動き、ひとりでに暴れている。
ハル「ちょっといやな気持ちを思い出すけど、この記憶を無視はできないから。開けるね?」
   頷くリコ。
   ハルが引き出しに手をかけ開けると、中からコウモリの形をした言
   葉たちが勢いよく飛び出してくる。
会社の人A声『こんなことも出来ないのか、空気を読めよ』
会社の人B声『高学歴のくせに期待はずれだよ』
会社の人C声『誰かあいつに仕事の仕方教えてやれよ、役立たず』
   リコとハルの周りをぐるぐると渦を巻くように回る言葉たち。
   ブクブク泡を吹きながら怖がって耳をふさぐリコ。
ハル「大丈夫、大丈夫だよ」
   リコは自分の胸を押さえた。
   ハルは苦しそうにもがくリコの胸をみるとどす黒い色の棘のような
   ものが刺さっているのに気がつく。
ハル「痛いね。苦しいね。大丈夫だよ」
  リコはハルの小さな手をぎゅっと握った。
ハル「思い出して、あなたの好きな音楽は?景色は?好きな食べ物は?好きな人は?なんでもいいから、心が優しくなるもの思い出して」
   泣きそうな顔をして首を振るリコ。
ハル「リコさん、この言葉があなたの全てじゃないよ」
   ハルの後ろで暴れる言葉のコウモリ。

ハル「思い出して」
   ハルを見るリコ。
   ハルはリコの目の前に色とりどりの音符を広げる。
   音符にリコが触れると、音符たちはリコの記憶になって目の前に広が
   る。
   音符の中からリコの笑い声や歌声、家族の声、友達とアイスを食べて
   はしゃぐリコの記憶が目の前に映し出される。
リコの母声『リーコ。あなたは本当に優しい子ね』
リコの友達声『リコ、話し聞いてくれてありがとう元気出た』
リコの母声『リコ』
友達声『リコ』
   優しくリコの名前を呼ぶ声がこだまする。
   リコの胸のトゲが金色に光ると、ハルの腕時計も金色に光る。
ハル「時間だ…。リコさん。あなたが隠した言葉は何?」
   リコは言葉を吐き出そうと声を出そうとする。
   けれどそれは泡となって言葉にならない。
ハル「この綱をたどって。帰り道がわかるから」
  ハルはそう言うとリコの手を離す。
  ハルに手を伸ばそうとするリコ。
ハル「急いで。息が続いている間に」
   息が苦しくなったリコは、両手で口を押さえると懸命に上を目指す。
   光の方に向かって、綱をたどって泳いでいくリコ。
リコ「プハッ!」
   海面から顔を出す瞬間、
   いつもの部屋のベッドから起き上がるリコ。

◯リコの部屋
   時計を見ると23時30分。
   リコは携帯を取りに行って母親に電話をかける。
リコ「もしもし。ごめん。遅い時間に。うん、うん。元
気…じゃない。失敗した。悔しい…すっごい、悔しいよ」
  涙を流すリコ。

◯夜の海の中
   海面を見上げるハル。
リコの声『悔しいよ』
   リコの声と一緒に夜の海の中に金色のトゲが落ちてくる。金色のトゲ

   が海の中で弾けると色とりどりの音符になる。
   ハルはそれを拾い集めようとあちらこちらに散らばる音符を懸命に泳

   いで拾い集める。暗い海の底の方に沈んでいく一つの音符も逃さない

   ように拾い上げて小瓶の中に大事そうに入れる。
   小瓶を見つめるハル。
ハル「よかった」
モモ「おい、次いくぞ」
ハル「うん」
   ハルはモモを追いかけて青い海の中を泳いでいく。

                     つづく



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