「Night Diver」

三浦春馬さんの『Night Diver』という彼の曲を聞いていると、ハルという小さな男の子がナイトダイバーになって人々の夢の中に現れる物語が頭に浮かんできました。

 悩み苦しみ眠れぬ夜に、ナイトダイバーハルは瞼閉じた世界に会いに来てくれる。そんな優しくて温かいお話です。
「この深い夜の海の底に僕の体は眠っている。他の人が沈んでこないように、僕が守るよ」ハルはそう言って暗く深い海の中を泳いで行きました。

   作詞・作曲 辻村有記

    歌 三浦春馬

瞼閉じて映る世界

そこに君がいるならばもういっそこのままでいいやいつまでも忘れられなくて

明日になれば治るような胸に突き刺さる棘の行方

知らんふりしてみないようにして気付いたら戻れないような気がした

昨日も同じこと考えて結局こんな夜過ごして

それでも嫌な感じじゃなくて


 ーepisode1ー

◯ビルの屋上

   宇宙飛行士がかぶるようなヘルメットを被って、青色に星の絵の描かれたパ
   ジャマを着た10歳くらいの男の子、ハルと毛むくじゃらでヘルメットを被
   った犬のモモは高いビルの屋上に立っている。

   雲がかかっていた大きな月が顔を出すと月の光が広がる。

ハル「時間だ」

  ハルがそう言うと、夜の世界がぐるりと回って、夜空が下に街が上になり世界
  が反転する。
  上になった街から雨が降ると海のように水がはられ、夜空が次第に海になり、
  夜の海ができる。海の中には星や月が漂い、魚が泳いでいる。

ハル「行こうか、モモ」

モモ「ワン!」

  ハルはそう言うとくるりと背中を向けて楽しげに後ろから夜の海の中へダイ
  ブする。
  モモと呼ばれた毛むくじゃらの犬はその場をくるくると回るとハルを追いかけ
  るように夜の海にダイブしていく。

◯夜の海の中

  海の中は、水面の近くは月や星や惑星が散らばり青く明るい。海底の方は黒
  く静かで、魚も惑星も何もない。

ハル「えっと、今日は637番、方角は南西の方か」

  ハルは腕時計のような変わった機械で場所を確認する。腕時計を見ていたハル
  は目の前をかすめていく魚にぶつかりそうになる。

ハル「おっとごめんよ」

ピンクの魚「気をつけてよ。記憶がこぼれたらどうするの」

ハル「ごめんって。そうだこれをどうぞ」

  ハルは無邪気な笑顔でポケットから色とりどりの音符を取り出し、まるで餌を
  あげるように魚の前に放つ。

ピンクの魚「音符だ!」
  
  ピンクの魚は大喜びで音符を食べる。
  そこに他の魚も集まってくる。

青い魚「僕にも」

黄色い魚「私にも」

ピンクの魚「この感覚は美味しいぞ」

青い魚「僕は悲しい方がいい」

黄色の魚「こっちは何?はじめての味だ!」

ハル「わああ」

  ハルは魚たちに囲まれ楽しそうに笑う。

モモ「おい、ハル。遊んでないでいくぞ。今日のお客が待ってるだろう」

ハル「ごめん、ごめん」

  現実の世界では可愛く吠えていたモモは、夜の海の中ではおじさんの声にな
  る。

ハル「じゃあね、またね」

  音符に群がる魚たちに丁寧に挨拶して手を振ると先を泳いでいくモモを追いか
  けるハル。

ハル「モモ怒ってる?」

  モモの顔を覗き込むハル。
  モモは何も言わずにハルの方をちらりと見る。

モモ「お前なあ。音符は客の感覚を繋ぐために使う大事な商売道具だぞ。あんなと
 ころでほいほいばらまいていいものじゃないんだから」

ハル「ごめんって。でも、きっといい夢が見れるよ」

  魚たちの方を見るハル。
  ハルからもらった音符を食べた魚が勢いよく泳ぎだし、歌い出す。

  水面には魚が跳ねるとキラキラした光が飛び散って、下の世界に落ちていく。
  キラキラはベッドで眠る子供の頭の中に入っていくと記憶が夢となってその子
  の頭の中に入っていく。子供は微笑んで眠る。

  別の魚のキラキラした光は音を刻みながら跳ね、夜の街を風のようにかけてい
  く。

  キラキラがたどり着いたのは、ベッドでうずくまりながら携帯をいじる女性、
  高梨リコ。


◯リコの家(夜)

  ベッドにうずくまってメッセージを作成しているリコ。
  手元の携帯から見えるメッセージの内容と宛名。

『井上主任
先日は、大変ご迷惑をおかけ致しました。以後、このようなことのないように…』

  そう打ちながら震える手を止めて、苛立つように
リコ「あーもう!」
  と声をあげると文章を全て消していく。
  携帯を枕元に置いて目を瞑るが、しばらくして気になって携帯に手を伸ばす。

リコ「ダメだ」

  伸ばした携帯を持って、離れた机に置きにいく。
  携帯の画面を机に伏せて、その上に近くに飾ってあった小さいくまのぬいぐる
  みを乗せると振り返ることなくベッドに潜り込み、背中を向けたまま眠りにつ
  く。

◯夜の海の中

  パジャマ姿のリコは水の中で「プハッ」と大きく息を吐き出す。
  すると空気が泡となってブクブクと明るい水面に向かって上がっていく。
  海面に伸びていく命綱のような体に巻きつかれた綱を邪魔そうに引っ張るリ
  コ。取れない綱を握りしめて、あたりを見渡す。

リコ声『ここは…海?』

  青い海の中で静かに泳ぐ魚や小さな惑星を眺める。

ハル「こんばんは」

  後ろからひょっこり現れたハルに驚き泡を吐き出すリコ。

リコ「ぶはっ」

ハル「何も言わなくて大丈夫。水の中だから言葉は出ないよ。僕はナイトダイバ
 ー。彼は相棒のモモです」

モモ「よう、元気かい」

  おじさん臭く喋る犬に訝な顔をするリコ。

ハル「大丈夫。不安なら僕が手を繋いでてあげる。だから行きましょう」

  差し出されたハルの手とヘルメットの中で優しく笑うハルの顔を見るリコ。
  リコはハルの手を握り、首をかしげる。

ハル「この海に沈めてしまったあなたの言葉を探しに行かなきゃ」

  ハルに手を引かれて海の中を泳いでいく。
  不思議そうにあたりを見渡すリコ。
  ハルは一つの惑星に近づくと、そこはリコの会社そっくりの世界にたどり着
  く。

リコ声『会社…?』

  机の引き出しがガタガタと動き、ひとりでに暴れている。

ハル「ちょっといやな気持ちを思い出すけど、この記憶を無視はできないから。開けるね?」

  頷くリコ。ハルが引き出しに手をかけ開けると、中からコウモリの形をした言
  葉たちが勢いよく飛び出してくる。

上司『こんなことも出来ないのか、空気を読めよ』

同僚『高学歴のくせに期待はずれだ』

上司『誰かあいつに仕事の仕方教えてやれよ』

同僚『これで同じ給料とか、早くあいつやめないかな』

  リコとハルの周りをぐるぐると渦を巻くように回る言葉たち。
  ブクブク泡を吹きながら怖がって耳をふさぐリコ。

ハル「大丈夫、大丈夫だよ」

  リコは自分の胸を押さえた。
  ハルは苦しそうにもがくリコの胸をみるとどす黒い色の棘のようなものが刺さ
  っているのに気がつく。

ハル「痛いね。苦しいね。大丈夫だよ」

 リコはハルの小さな手をぎゅっと握った。

ハル「思い出して、あなたの好きな音楽は?景色は?好きな食べ物は?好きな人
 は?なんでもいいから、心が優しくなるもの思い出して」

  泣きそうな顔をして首を振るリコ。

ハル「リコさん、この言葉たちがあなたの全てじゃないよ」

  ハルの後ろで暴れる言葉のコウモリ。

ハル「思い出して」

  ハルを見るリコ。ハルはリコの目の前に色とりどりの音符を広げる。
  音符にリコが触れると、音符たちはリコの記憶になって目の前に広がる。
  音符の中からリコの笑い声や歌声、家族の声、友達とアイスを食べてはしゃぐ
  リコの記憶が目の前に映し出される。

リコの母声『リーコ。あなたは本当に優しい子だね』

リコの友達1声『リコ、話し聞いてくれてありがとう元気出た』

リコの母声『リコ』

友達1声『リコ』

友達2声『リーコ』

  優しくリコの名前を呼ぶ声がこだまする。
  リコの胸のトゲが金色に光ると、ハルの腕時計が金色に光る。

ハル「時間だ…。リコさん。あなたが隠した言葉は何?」

  リコは言葉を吐き出そうと声を出そうとする。けれどそれは泡となって言葉に
  ならない。

ハル「この綱をたどって。帰り道がわかるから」

  ハルはそう言うとリコの手を離す。
  ハルに手を伸ばそうとするリコ。

ハル「急いで。息が続いている間に」

  息が苦しくなったリコは、両手で口を押さえると懸命に上を目指す。
  光の方に向かって、綱をたどって泳いでいくリコ。

リコ「プハッ!」

  海面から顔を出す瞬間、いつもの部屋のベッドから起き上がるリコ。


◯リコの部屋
  
  時計を見るとPM11:30
  リコは携帯を取りに行って母親に電話をかける。

リコ「もしもし。ごめん。遅い時間に。うん、うん。元気…じゃない。失敗した。
 悔しい…すっごい、悔しいよ」

  涙を流すリコ。


◯夜の海の中

   海面を見上げるハル。

リコの声「悔しいよ」

  リコの胸に刺さっていた金色の棘がくるくると落ちてくると夜の海の中で言
  葉と共に響き渦を作ると色取り取りの音符になって落ちてくる。
  ハルはそれを拾い集めて小瓶の中に入れる。
  小瓶を見つめるハル。

ハル「よかったね」

モモ「おい、次いくぞ」

ハル「うん」

  ハルはモモを追いかけて青い海の中を泳いでいく。


ーepisode2ー

◯高校・昇降口(放課後・昼)

  生徒が帰っていく昇降口。
  ドアの近くに立っているくりくりした瞳に丸坊主の頭をかきながらきょろきょ
  ろと辺りを見渡す男子生徒、岡本ユウタ。

男子生徒1「ユウタ、今日カラオケ行かね?」

  同じ様に短髪の3人の男子生徒がユウタに話しかける。

ユウタ「お前ら試験前なんだから勉強しろよ〜」

男子生徒1「野球ばっかして赤点ギリギリなのはお前だけだろ」

ユウタ「うっせーわ。試験範囲教えてやらないからな」

  笑って答えるユウタ。

男子生徒2「ユウタ様」

男子生徒3「神様、女神様」

ユウタ「男だわ」

男子生徒2「何卒、ノートのコピーを」

ユウタ「わかったよ、明日持ってくるから」

  無邪気に笑うユウタ。

男子生徒3「お前さっきから何そわそわしてんの?」

男子生徒2「便所行けや」

  手に持っている紙袋を体の後ろに隠すユウタ。
  それに気がつく男子生徒1。

男子生徒1「行こうぜ。部活ないときくらい羽伸ばしたいわ」

ユウタ「だから勉強しろって」

  呆れた様に笑って言う。

男子生徒2「じゃあ後でな〜」

  ユウタに手を振って歩き出す男子生徒たち。

男子生徒1「急に予定ができたら、今日は来なくてもいいぞ」

  ユウタの肩を叩いて歩き出す男子生徒1。

ユウタ「なっ!お前…!」

  顔を真っ赤にするユウタ。

アヤメ「岡本くん?」

  声がする方に顔を向けると、長い黒髪にキリッとした顔立ちの女子生徒、長野
  アヤメがユウタの方を向いて首を傾げている。

ユウタ「あ!長野!これ、約束してたCD」

アヤメ「本当に持ってきてくれたんだ。ありがとう」

  紙袋にたくさん入ったCDを渡すユウタ。
  紙袋の中を覗き込みながら受け取るアヤメ。

アヤメ「お礼に今度なんか奢るね」

ユウタ「いや、お礼なんて。俺が聴いて欲しくて持ってきたんだし」

アヤメ「じゃあ、私も食べてみて欲しいものおごるから」

  嬉しそうに照れて首の後ろをかくユウタ。
  夕暮れの日差しと共に穏やかな空気が流れ沈黙する二人。

アヤメ「じゃっ…」

ユウタ「あ、この三枚目の最後の曲がめちゃくちゃいいから聴いてみて」

アヤメ「へえ、そうなんだ」

  CDを取り出して裏面を見るアヤメ。

ユウタ「それと!こっちのアルバムはあんまり有名じゃなくて聴きにくいかもだけ
 ど、めっちゃいいから聴いて!それと…!(アヤメの携帯が鳴る)」

アヤメ「あ、ごめんね」

  ちらっと画面を確認するアヤメ。
  そんなアヤメを切なげに見るユウタ。

ユウタ「…彼氏?」

アヤメ「ううん、母親。帰りにお使い頼まれちゃった」

ユウタ「あ、じゃあCD邪魔だな、ごめんこんなにいっぱい。明日また持ってこようか?」

アヤメ「ううん!大丈夫だよ。大切に持って帰ります」

  笑うアヤメに照れるユウタ。

ユウタ「…あのさ(アヤメの携帯が鳴る)」

  ちらっと画面を確認したアヤメはホッとした顔をして慌てたようにCDをカバ
  ンに詰め込む。

アヤメ「ごめん、もう行かなきゃ」

ユウタ「お、おう」

  言葉を飲み込むユウタ。

アヤメ「CDありがとうね。じゃあまた!」

  小さく手を上げてその場を去って行くアヤメ。

ユウタ「お、おう!」

  アヤメの背中に手を振るユウタ。

ユウタ「またっていつだろ…」

  ニヤニヤが止まらないユウタは周りの生徒と目があって気まずくなり、真顔に
  なろうとするが笑みが止まらず腕で顔を隠してニヤニヤしながら帰っていく。


◯夜の海の中(漸深層)

ハル「今日は732番、西南の方にいるみたい」

モモ「ああ、そいつ最近くる頻度高くないか?」

ハル「解決しても根の深い何かが変わらないと同じところで悩んでしまうんだよ」

モモ「そう何度もくるやつ相手にしてたらお前の身がもたいなだろう。ただでさ
 え全員見つけ出すことだって出来ていないのに」

ハル「モモ、僕らはナイトダイバーだよ?ここを守るのが僕らの役目だ」

モモ「はいはい」

  目をぐるっとまわしてわかりましたと言わんばかりのふてぶてした顔をするモ
  モ。
  ハルたちの目線の先に金色に光る稲妻のような光が伸びる。

ハル「行こう、モモ」

  光の方に泳いでいくハル。

ハル「こんばんは。アヤメさん」

  名前を呼ばれて振り返るアヤメ。アヤメの胸には黒い棘が刺さっている。


◯学校の昇降口(放課後)

  小さな声でブツブツ言うユウタ。

ユウタ「俺と…付き合ってください…俺と…」

  足元の土の削れ具合で長いこと緊張して立っていたことがわかる。

アヤメ「岡本くん」

  驚いて顔を上げるユウタ。

ユウタ「わあ…!長野」

アヤメ「ごめん、待たせた?」

ユウタ「全然、今来たとこ。うちの担任話し長いから」

アヤメ「あ、西崎先生?私も去年習ってたよ」

   喋りながら校門に向かって歩き出す二人。

アヤメ「駅前にできたたこ焼き屋さんすっごく美味しいからそれ食べて欲しくて」

ユウタ「俺なんでもうまいからな」

アヤメ「えーなにそれ」

   楽しそうに笑う二人。

ユウタ「ところで…今日この後時間あったら映画でもみない?俺、友達からチケットもらって」

  少しテンパりながらも自然体を装って話すユウタ。
  急に立ち止まるアヤメ。
  立ち止まったアヤメに気づいて振り返るユウタ。
  ユウタの先を見つめるアヤメ。

アヤメ「コウくん…」

  背の高いいかにもモテそうな他校の男子生徒、コウが携帯をいじりながら校門
  の前に立っている。
  アヤメの姿に気づいたコウは、アヤメに手をふると電話をかけ始めて歩き出し
  てしまう。

アヤメ「岡本くん、ごめん!彼氏が待ってたからまた今度でもいいかな!」

ユウタ「あ…」

アヤメ「これ、借りてたCD!ほんとにごめんね!」

  アヤメはユウタに紙袋を渡すと焦って走り出す。

ユウタ「あ、ちょ…」

  返されたCDの紙袋の底が抜け、地面に落ちて慌てたユウタはCDケースを踏
  んでしまう。バキッと音を立てて割れるケース。

ユウタ「最悪だ」

   割れたケースを見て座り込むユウタ。

ユウタ「彼氏って…いたのかよ…」

男子生徒3「おいユウタ振られたのか?」

男子生徒2「あれ、1組の長野アヤメだろ。彼氏背高いしイケメンだな。何一つ勝ち目ねえー」

男子生徒3「それより俺らとカラオケ行こうぜ」

  ユウタの肩に手をかけながらいう。

ユウタ「悪い」

  振り払うユウタ。

男子生徒2「おい、ノリ悪いぞ」

  散らばったCDを拾い上げて渡す男子生徒1。
  それを受け取るとなにも言わずに立ち去るユウタ。


◯ユウタの部屋(夜)

  ベッドに寝転がり、落ちつかない様に何度も寝返りをうつ。
  床に散らばるアヤメから返されたCDが目に止まる。
  割れたケースを拾い上げて、

ユウタ「粉々じゃんかよ…あーもう恥ずかしくて死ねる」

  腕で顔を隠すユウタ。
  
  時計の針の音だけが響く室内。
  何度も寝返りをうち、眠れないユウタの顔を携帯の光が照らす。
  時計の針がAM2:00を指す。
  ユウタはぎゅっと瞳を閉じる。


◯夜の海の中(漸深層)

ユウタ「ごほっ」

  と息を吐き出すTシャツに短パン姿のユウタ。
  青い海の中を見渡す。

ハル「こんばんは」

  ハルの姿に驚いて、その場で暴れるユウタ。
  自分の綱に足を引っ掛けて逆さまになる。
  ユウタの目線に合わせるように逆さになるハル。

ハル「この海にはめずらしい元気なお客さんだ」

  物珍しそうにユウタの顔を無邪気な笑顔で覗き込むハル。

ユウタ声「こ、子供?ここは海?」

ハル「驚いてますね」

   ユウタの顔を覗き込むハル。

ハル「ユウタさん、普段あんまり悩まないタイプの人ですよね。とてもシンプルな
 思考をしている。こんなに深く潜って来ることがないから驚いたかもしれないけ
 ど、心配しないで。ここはまだ安全」

  ユウタの足に絡まった綱をほどきながら話すハル。

ハル「むしろ多くを学べる場所でもありますから。でも、この下には注意して」

  ハルは深海を指差す。

ハル「ほら、あの真っ黒いところ。あそこには決して近づいちゃいけないよ。わか
 った?」

  ユウタはハルに起こされながら、ハルの言葉に頷く。
  にっこり笑うハル。

ハル「ところでそれは何を持っているの?」

  ハルに聞かれ、自分の手にさっきまで持っていなかった紙袋が持たされている
  ことに気がつく。
  中を開けるとたくさんのCDが漂う。

ハル「わあ、僕も音楽大好き!これはどんな曲なの?」

  ハルは目を輝かせる。

モモ「おいおい、ハル。仕事はどうした」

  急に喋り出した犬に驚くユウタ。

ハル「たまにはいいじゃない。少し寄り道してこの曲が聴けるところに行ってみま
 しょう」

  ハルは嬉しそうにCDをケースから取り出しくるっと回す。

モモ「まったく。悪いな兄ちゃん。ちょっと付き合ってくれ」

  ハルの回したCDはくるくると早く回り出してその渦から泡ができ、泡が次第
  に音符になる。

ハル「レディー、ゴー!」

  ハルの掛け声とともに、泡になった色のない音符が勢いよく飛び出していく。
  ハルはそれを追いかけるように泳ぎだす。
  小さな惑星をいくつも通り越して、ぶつかりそうになったり、大きな魚に追い
  かけられているところをユウタに助けてもらったりと、まるで公園で楽しげに
  遊ぶ子供のようにハルは無邪気に楽しんでいる。

ハル「ここだ」

  ハルが岩の隙間を覗き込んで、そこに泡になった音符を注ぎ込む。
  すると、岩の中で音が反響して、泡だった音符が音に変わる。
  ユウタのCDの曲が流れる。

ハル「これはこういう曲だったんだ」

  二人と一匹は泡によって可視化された音楽と響きあう音の幻想的な世界に見惚
  れる。

モモ「それにしても、こっちが恥ずかしくなるくらいラブソングばっかだな。
 ほら、あっちにもこっちにも、好きとか、LOVEとか、愛しているとか、うえ
 え〜」

 舌を出すモモ。
 ユウタは水中を浮かぶ泡になった言葉たちを恥ずかしそうに消そうとする。

ハル「いいじゃない。とっても素敵な言葉だよ。隠す必要なんてない大切なものさ」

  ハルは言葉たちを愛おしそうに眺める。
  ハルの腕時計が光る。

ハル「ああ、残念。そろそろ時間だ」

  ハルは海中に広がる音符の泡を腕時計で吸い込むとあたりを元どおりにする。

ハル「ユウタさん。あなたが隠した言葉はなんですか?」

  ハルはユウタの胸を指差しながら聞くと、ユウタの胸に小さな黒い棘がある
  事に気づく。ユウタはその胸の棘を抜こうとするとものすごく痛そうにする。

ハル「無理に抜こうとしないで」

  ハルは優しくユウタの手に小さな自分の手を添える。

ハル「その胸の棘は、誰を思ってできたものなの?」

  ハルがユウタにそう聞くと、ケースが粉々に割れた一枚のCDがガタガタと暴
  れ出す。
  そのCDにユウタが手を伸ばすと、コウモリのような真っ黒い言葉が飛び出し
  ユウタの周りをぐるぐる回る。

アヤメの声『岡本くんに食べてほし…ごめんね…彼氏が、待ってるから…』

男子生徒3声『振られたのか?』

男子生徒2声『勝ち目な』

アヤメの声『コウくん…待って』

   苦い表情をして胸を抑えるユウタ。

モモ「そっかあ、彼氏いたかぁ、いい感じだと思ってたのは自分だけだったかぁ。
 恥ずいやつかぁ。しかも彼氏めちゃくちゃイケメンかぁ」

ハル「モモ」

   モモを睨むハル。
  「はいはい、黙っていますよ」と言いたげな顔で、口を紡ぐモモ。

ハル「ユウタさん、思い出して。あなたの優しい気持ち」

  ハルはユウタの目の前に色とりどりの音符を広げる。
  ユウタの瞳に映る音符が、ユウタの記憶と繋がって、赤い音符となり音符の中
  に記憶が映し出される。
  その中にアヤメの顔が現れると、咄嗟に音符から逃げ目をそらす様にぎゅっと
  瞳を閉じるユウタ。

ハル「ユウタさん…ダメだよ目を開けて」

   縮こまるユウタに手を伸ばすハル。

ユウタ声『怖い、痛い、苦しい、見たくない!』

モモ「おいハル、男の色恋沙汰はな、優しさじゃ救えねー時だってあんだ。俺に任
 せな」

ハル「モモ…」

  音符から逃げ惑うユウタにヘルメットでお腹に突進するモモ。

ユウタ声『いったあ!』

   咄嗟に目を開け噛まれた足の方をみる。
   足元にいるモモはユウタに顔を近づけ前足で胸ぐらを掴む。

モモ「おい、お前それでも男か!好きな女に背を向けて自分の痛みばっかりに目を
 向けてたら守りたいもんだって守れねえし、大切なものだってなんも見えてこね
 ーよ!」

ユウタ「グハッ」

  何かを言いたげに訴えるが言葉が泡にしかならない。

モモ「おお、なんだよ!言いたいことがあるならな、俺じゃなく好きなやつにいえ
 や!」

モモ「目背けんな!自分の気持ちも好きな女も、全部ちゃんと見てやれよ」

  最後の方は何かを思う様に辛そうに言うモモ。

ハル「モモ…」

モモ「いけんな」

   頷くユウタ。

モモ「男だもんな」

  頷くユウタ。

モモ「アヤメのこと好きだもんな」

  照れもなく迷いもなく、まっすぐに頷くユウタ。

モモ「おい、なんだよこっちが照れんじゃないかよ」

  ユウタの顔を肉球で触る。

モモ「よし、行ってこい!ハル、今だ!」

ハル「棘のはじまりへ、いってらっしゃい」

  ハルはフーっと音符を吹いて、ユウタの瞳の前に赤い音符を差し出す。
  ユウタは目の前に差し出された音符に触れる。


◯ユウタの記憶の中の教室(放課後)

   夕焼けで赤く染まる教室。
   教室で一人黒板を消すアヤメ。

女子生徒1「あれ、一人でやらせて先生にチクったりしないかな?」

女子生徒2「平気でしょ。男に媚びるのが上手な長野さんは、ほっといても誰かに
 助けてもらうんじゃない?」

   笑いながら教室を後にする女子生徒たち。
   その様子を廊下から見ていた野球部のユニフォーム姿のユウタ。
   黙って教室に入っていくと、黒板消しを持って反対側から黒板を消そうとす
   る。瞳に浮かぶ涙に気づかれないように反対をむくアヤメ。

アヤメ「岡本くん、大丈夫。部活行きな」

ユウタ「まだ、時間じゃないから」

アヤメ「他のクラスの黒板掃除しなくていいから」

ユウタ「いや、でも長野一人じゃこの辺、届かないだろ」

アヤメ「…いいって。本当に大丈夫だから」

ユウタ「二人でやったらすぐ終わんじゃん」

アヤメ「本当に…いいから。本当に。手を出さないで、触らないで、ほっとい
 て!」

   ユウタに怒鳴りつけるアヤメ。

アヤメ「私が何をやっても、自分で努力したことすらも何かにつけ男に頼んだ、色
 目使った、思わせぶりな八風美人、一体私の努力はどこにいっちゃうの?」

  力を込めて消した黒板消しが、アヤメの手から飛んでユウタのユニフォーム
  に当たり、汚れる。

アヤメ「…ごめん」

ユウタ「大丈夫、この後泥まみれになるから」

  アヤメが落とした黒板消しを拾って、渡すユウタ。

ユウタ「長野って怒ると面白いのな」

アヤメ「え?」

ユウタ「なんかいつも涼しい顔して落ち着いてるやつかと思ったら意外と血の気が多いっていうか。うん、面白いよ。俺そっちの長野の方がいいわ」


◯夜の海の中(漸深層)

   手を伸ばしたユウタが記憶から戻ってくる。

モモ「そのまんまが好きかってか。キザな野郎だぜ」

   ハルは笑いながらモモの頭を撫でる。

ハル「うん、僕も彼が大好き」

   泣きそうなモモに向かって笑うハル。

ハル「ユウタさんあなたの隠した言葉は何ですか?」

  泡を吐き出すユウタ。金色に光るユウタの棘。
  ハルの腕時計も金色に光る。

ハル「時間だ…。ユウタさんこの綱をつたって。帰り道がわかるから」

  綱を見上げて登ろうとするユウタ。そして何かを思い出したようにハルの元に
  戻ってくる。
  ハルは不思議そうにユウタを見る。
  ユウタはポケットからCDを取り出すと、ハルにCDを渡す。ニコッと笑って
  ヘルメットの上からハルの頭を撫でる。

  ユウタはモモの方をみると首を優しく撫で、自分の身の回りを探す。
  ユウタは足首についていたミサンガを外すとモモの首につけてあげる。
  ハルとモモに深く一礼すると綱に沿って海面に泳いでいく。

モモ「こんなもんくれてもすぐに消えてなくなっちまうのに」

  ユウタの命綱の光が遠くなるにつれモモの首のミサンガが消えていく。

モモ「あいつはなんでも人にあげちゃうな」

ハル「うん」

  ユウタの後ろ姿を優しく見守る二人。


◯ユウタの部屋

ユウタ「ぶはっ!」

  布団から勢いよく起き上がるユウタ。床に散らばるアヤメから返されたCDを
  見つめる。


◯学校・校門(放課後・夕方)

  エナメルバックを背負いながらアヤメの姿を探すユウタ。
  アヤメが歩いてくるが、下を向いて暗い顔のアヤメはユウタに気がつかない。

ユウタ「長野!」

  名前を呼ばれて顔を上げるアヤメ。

ユウタ「よっ」

アヤメ「よう」

  ユウタの真似をして小さく手をあげるアヤメ。

コウ「アヤメ」

  校門の外でアヤメを待つコウが、アヤメに声をかける。
  コウに声をかけられたアヤメの手が小さく震えているのに気がつくユウタ。

ユウタ「長野大丈夫か?」

アヤメ「ごめん、行かなきゃ。またね」

  コウの元に行こうとするアヤメを呼び止めるユウタ。

ユウタ「これ」

  アヤメの前に差し出されるCDが入った袋。

アヤメ「これ前借りたよ?」

   アヤメに無理やり渡すユウタ。

コウ「こういうの迷惑なんで」

   ユウタに強く突き返すと、袋が床に落ちてしまう。
   咄嗟に屈み、拾うアヤメ。

コウ「いくぞ!」

   強い口調で言うコウ。

アヤメ「今いく」

  コウを追って立ち上がろうとすると貧血で転んでしまうアヤメ。
  ばら撒かれるCD。
  呆れた顔で携帯をいじり出すコウ。
  助けを求めるようにコウを見るアヤメ。
  ユウタはアヤメの隣でCDを拾う。

アヤメ「ごめんね、岡本くん、弁償するから」

ユウタ「これ、もらってくれないかな」

アヤメ「え…ちゃんとお金払うよ、買ってきてもいいし」

ユウタ「好きだから」

アヤメ「え…」

ユウタ「好きなやつに好きなものあげたくなるだろ、普通」

アヤメ「え?」

ユウタ「迷惑じゃなければこのままもらってよ」

  袋にCDを入れ直して立ち上がり、アヤメに渡すユウタ。

ユウタ「そこの彼氏さん。そういうことなんで。俺、長野のこと好きなんで大事に
 したいです」

  野次馬のように集まってくる生徒たち。
  その中にユウタの友達3人もいる。

男子生徒3「あいつイケメンに勝てんのか?」

男子生徒2「いや、どう見ても勝ち目ないだろう」

  なにも言わずにユウタを見る男子生徒1。

ユウタ「大事にしないと俺みたいな奴に取られますよ」

  コウに向かって真っ直ぐ言うユウタ。

コウ「いくぞ、アヤメ」

  乱暴にアヤメの手を引く。
  痛がるアヤメを見てコウの肩を掴んで振り向かせるユウタ。

ユウタ「俺は本気です」

  コウはアヤメの手を離すと面白くなさそうに歩き出す。
  アヤメの方に向き直って、

ユウタ「悪かったな、長野」

  俯きながら首を振るアヤメ。

コウ「おい、アヤメ行くぞ!」

  苛立ったコウがアヤメを呼ぶ。

アヤメ「ありがとう」

  アヤメは一度だけユウタの目を見るとコウを追いかけ走っていく。

男子生徒1「おい、悪くなかったぞ」

  そう言いながらユウタの肩に手を回す。

男子生徒2「ユウタのくせに」

  友達に向かっていつもの無邪気な顔で笑うユウタ。


◯道(夕方)

  電話するコウの後ろを歩くアヤメ。

コウ「後でそっちいくから。ルミにもそう言っといて。じゃあ」

アヤメ「ねえ、…前から聞こうと思ってたんだけど。ルミって誰?」

コウ「アヤメに関係ないだろ、うざいこと聞くなんてアヤメらしくない。てか、そ
 んなの捨ててこいよ」

  ユウタのCDを取り上げるコウ。

アヤメ「やめて、返して」

  コウからCDの入った袋を引っ張る。

コウ「なに?清楚ぶって気強いとか可愛くないよ」

  俯くアヤメ。

コウ「あーあ。アヤメのこと嫌いになりそう」

  袋から手を離すコウ。

アヤメ「…ルミって子と浮気してるの知ってる」

コウ「だから?アヤメが好きだっていうから付き合ってやってるんだろ。お前俺と
 別れられんの?」

  ユウタにもらったCDをぎゅっと握りしめるアヤメ。

アヤメ「うん、別れよう」

  顔を上げて真っ直ぐ前を見るアヤメ。

  

◯夜の海の中(表層)

   海面を見上げるハル。

ユウタの声「好きだから」

  金色の棘が海に静かに落ちて来ると渦を作りユウタの声となり、声が音符とな
  って弾ける。

  いつもより暖色の多い音符たち。ハルはそれを拾い集めて小瓶の中に入れる。
  小瓶を見つめるハル。

モモ「いつもじゃ手に入らないような温かい色が増えたな」

ハル「うん」

モモ「貴重な商売道具が増えてなによりってとこだ」

ハル「うん、そうだね…」

  抑えきれず笑い出すハル。

ハル「ぷぷっ。モモったら会えないのが寂しいんでしょ」

モモ「うるせえ、こんなとこあいつのくるとこじゃねえ。二度とくんな!」

ハル「そうだね」

  優しく笑って寂しげなモモの背中を撫でるハル。
  そこへ、アヤメの声が落ちてくる。

アヤメの声「別れよう」

  金色に光ったユウタのより大きな棘が弾けると渦を作って音符になる。
  それを拾い集めるハル。

ハル「この言葉、こんなに温かい色が含まれて落ちてくると思わなかった」

モモ「またしてもあいつか、ちえっ」

ハル「すごいね、言葉って。一つの言葉が誰かの言葉に連鎖するなんて。だから上
 は面白いね」

  海面を見上げるハル。
  ハルの横顔を切なげに見つめるモモ。

モモ「おし、久しぶりに魚どもに良い餌でも奢ってやるか」

ハル「いいね」

  ハルとモモは魚たちのいる方へ泳いで行く。


       

◯大木良治の家・過去(夜)

  暗い部屋の中、電話の留守電ボタンが不気味に点滅して光る。
  大木と妻、幼い子供が写った幸せそうな写真が飾られている。
  うるさく鳴り響く電話の音。

  袋の中からたくさんの睡眠薬を取り出す大木良治(46)。こぼれおちる程手
  のひらに乗せて口に含む。
  テーブルの上に置いてあるロープを見つめる。
  鳴り響く電話の音の方に顔だけ向ける。

  大木の目は死んでいる。

  ロープを持ちあげ見つめる大木。日が沈んでいく。

  小さな手がパチンと指を鳴らす。

ハルの声「時間だ」

  その声と共に大木の部屋は反転し、ロープに首を括ろうとしていた大木はよろ
  ける。大木は身を委ねるように黒い闇の中に落ちていく。首に括ろうとしたロ
  ープは大木の手首に絡まって…。


◯夜の海(深層と超深層の間)

  暗い海の深海。

  遠い海面に繋がる金色のロープは暗い海底に落ちていかないようにかろうじて
  大木の体を支えている。薄く光る金色のロープのかすかな光を頼りにあたりを
  見渡す、大木。

  寒そうに震えながら体をさする。

ハル「こんばんは」

  ハルの声に驚いて息を吐き出す大木。

大木「ぶはっ」

ハル「こんなところまで来ちゃダメだ。今すぐ上にあがりましょう」

  大木に手を伸ばすハル。

  暗い海底を見つめ、何かを納得したように首をふる大木。

ハル「ダメだ」

  海底に向かって泳いで行こうとする大木。

ハル「ダメ、待って」

  首を振って追いかけるハル。

  海面に繋がるロープの長さで、下に泳いでいけない大木。
  邪魔そうにロープを引っ張る。

ハル「ダメだよ、切れてしまう!」

  大木はロープをちぎろうとする。

ハル「ねえ、お願い!やめて!繋がりが切れてしまうよ!」

  大木の目を見ながら首を振るハル。

  大木はハルの目を見て諦めてくれと言わんばかりに首を振る。

ハル「ダメ、ダメだよ」

  大木は力一杯ロープを引っ張る。
  海面と大木をつないでいたロープはプチっと切れると、長いロープは線香花火
  のように光ったところから消えていく。

  ハルは懸命に大木に向かって手を伸ばすも届かずに、大木は体の力を抜くよう
  に目をつぶって深く暗い海の底に体を沈めていく。
  大木の体につながっていた金色のロープは花火のように一瞬綺麗に光ると儚く
  散って暗い海底に戻る。

  ハルの悔しそうな表情とヘルメットに反射するハルの手首の時計の光が一瞬光
  を失う。
  針の下に刻まれている数字が減る。
  ハルは再び光出した腕時計を握りしめる。


◯夜の海(表層)

  モモの顔のアップ。

モモ「ハル!」

ハル「わあっ」

  驚くハル。

モモ「お前が昼寝なんて珍しいな」

ハル「懐かしい夢をみてた」

モモ「ほお、どんな?」

ハル「モモが人間だった頃の」

モモ「ああ、そんなこともあったか。もうほとんど覚えちゃいないけどな」

ハル「…」

モモ「どうした?浮かない顔して」

ハル「僕はモモが羨ましい」

モモ「ああ?」

ハル「この間のお客さんに僕は何もしてあげられなかった」

モモ「そうか?」

ハル「人間の苦しみは人間にしかわからないよ」

モモ「お前だって人間だったかもしれないぞ」

ハル「そうかな。そうだといいな」

モモ「あといくつ集めたら、お前の願いが叶うんだ?」

ハル「わからない。でも、僕にはモモがいるから。大丈夫だよ」

モモ「おう、任せろ。びしばし今日も働かせてやるからな!ほら、とっとと海の掃除から始めようぜ」

   笑うハル。
   ハルの腕時計が点滅する。
   腕時計を見るハル。

ハル「今日は935番、北東の方だ」

モモ「おう。今日もいっちょ働きますか」

ハル「行こう、モモ。今日も誰かの心の棘を抜かないと」

  泳いでいくハルとモモ。


                                  つづく


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