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母の手紙

2009/10/26
(この記事は2009年のものです)

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みちこちゃん

お葉書ありがとう。
お葉書をいただきっぱなしで、お返事を書けなくてごめんなさい。

あなたはお家のことを一生懸命にやっていらっしゃるご様子ですが、私は返事も書けない有り様です。

第一、手が痺れて、ベッドから起き上がれないんです。
昔のように、元気に歩きたいです。

こんな泣き言を聞かせて、ごめんね。

あなたと私は、何か運命で繋がっているような気がします。
六年生の時、同じ名前のきょうだいが生まれ、よく喧嘩もしましたね。
小学校の時の想い出は、やはり、あなたでした。

この歳になって同じような(脳の)病気になって、不思議なものです。

二人のやすこちゃんが先にいなくなってしまってから、ほんとうに淋しくなりましたね。
昔みんなで旅行に行ったことを想い出しています。楽しかったです。


あなたも身体を大切にしてください。
書けたら、また書きます。

さようなら。


ふみこ

2009年10月26日(月) 午後3時10分

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手紙を書きたいと母が言うので、ノートとサインペンを渡した。

ベッドを起こして、老眼鏡をかけ、ペンを手にするけれど、何もついていないノートの端を手で撫でながら、「ここにプラスティックがついている」と、妙にこだわってみせる。

どうにか文字を書き始めるものの、もう、まったく判読不可能な、米粒のような文字しか書けなくなっている。これも病気の症状のひとつで、文字がどんどん小さくなってしまうのだ。

4行くらい綴った後に、「なんて書いたんだか、読めないわ」と、母は哀しそうに顔を歪める。「思っていることと書けることは違うのよ」と言うので、口頭で母が語り、それを私がノートに書き綴ることにした。

母は暗い暗い顔をして、みちこちゃんへの手紙文を静かに語り、語り終わると、「読んでちょうだい」と言う。

私は棒読みではなく、でもあまり感情をこめすぎないように読む。

「OK? バッチリ? これ、みちこちゃんに送る?」と訊くと、母は、満足げに頷く。

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