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うまい棒めんたい味の思い出

5歳か6歳ごろ、祖父が毎晩飲む「紅乙女」という胡麻焼酎の瓶で遊ぶのが好きでした。
まだ焼酎が入っている瓶をひたすら振ったり、床で転がしてみたり。
それを見て祖父が「あぁ〜おじいちゃんの命の水が〜」というのもすごく面白くて、そう言われるとさらに激しく瓶を振るのでした。

ある日、うまい棒めんたい味を食べながら瓶で遊んでいた私は、「このうまい棒の袋のかけらを瓶の中に入れて振ったらもしかして綺麗?」と思いつき、それを実行しました。
たまに頂き物である金箔入りのお酒。あれをイメージしていました。

じゃぼじゃぼ振って、ゆらめくうまい棒めんたい味のパッケージ。
「思ってたほど綺麗じゃなかったな〜」と思ったあと、もう取り出せないことに気づきます。
「知らないふりをしよう」と決めた私は、晩御飯を食べる頃には完全に忘れておりました。
晩御飯の後はいよいよ祖父の晩酌タイムです。
「ん?これ何か入ってるな」
祖父が気づきました。
それを聞いた叔父が横から瓶をながめて「これはうまい棒の袋の端とみた。紫色ということは、めんたい味や」と完璧な推理をしました。
なんで叔父が色ごとの味を覚えてるのかはいまだに謎です。

その瞬間全てを思い出した私は「味まで当てられた!?でも知らんふり知らんふり」と内心とんでもなく焦りながら黙ってテレビに夢中なふりをしていました。
叔父に「これ、なつが入れたんか?」と聞かれ、「ちがうで。何も知らんもん」と答える私。

その場にいた大人たちは全員、私がやったとわかっていて、それでも隠す私が面白かったようで「別に怒らへんから教えてみ?」と笑いながら言うのですが、私は「知らんもん。私じゃないもん」と必死に嘘をつきます。
「誰が入れたのかわからんけど、これ入れた人は何がしたかったんかな」と言いながら、祖父は笑いすぎて泣いていました。

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結局私は最後まで、自分がやったとは認めずにテレビを見続けました。
今も家族には「あの時のうまい棒、私です」と言えてません。
大人たちが全員気づいていることがわかったうえで嘘をつき続けた、幼い私の複雑な心情。
今もうまい棒めんたい味の紫色のパッケージを見ると思い出します。

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