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「トヨタVSテスラ、時価総額逆転現象」について考えてみました

「トヨタVSテスラ、時価総額逆転現象」

7月初旬にEV(電気自動車)専業メーカーである米国テスラの時価総額がトヨタ自動車の時価総額を上回り、自動車業界トップに躍り出ました。7月15日時点の株価は1546ドルと月初から38%上昇し、時価総額はというと2865億ドル(30兆円強)とトヨタ自動車と本田技研の合計時価総額27兆円強をも凌駕しています。昨年の販売実績が30万台規模の新興自動車メーカーの時価総額が業界トップクラスの1000万台規模企業のそれを追い抜いてしまった訳ですからビックリです。今回のメモでは、関連記事を見たことがある方もいると思いますので株価面での考え方にフォーカスして整理してみました。

まず、EVが注目されている背景として、

①ハイブリッド技術で先行するトヨタ自動車に対抗する手段として欧米主要メーカーが開発を強化している、

②中国など市場規模が大きい国ほど自国産業・企業育成の観点から重要性が高い、

③ESGの観点から地球環境に対する配慮が高まってきている、

などの要因を挙げることができます。世界の自動車マーケットでの販売台数は昨年が9000万台の規模(その半分弱が米国・中国市場)。EVのシェアはというと約2%と低水準ですが、低い分だけ国家・企業の取組みが強化されるにつれ成長が期待できることになります。

個別企業でも、VW(フォルクスワーゲン)といった世界の主要自動車メーカーがEVシフトを強力に進めていますが、そのなかでテスラは「一日の長」があるとみられています。トヨタ自動車などの大手自動車メーカーではEV化が進んだ場合、自社生産設備はもとより、系列企業といったものが足かせとなるのに対して、テスラではこうした負の遺産が表面化するリスクが無視できるほど小さいためです。

次に株価を考える上では、理論値を計算する尺度としてPER(株価収益率)、PBR(株価純資産倍率)、PSR(株価売上高倍率、時価総額を年間売上高で割った数値)がよく使われます。ここでは具体的な数値を示しませんが、テスラはやっと直近数四半期で黒字化したばかりの企業ですので自動車業界ではもとより米国株式市場全体の中でも極端に割高に評価されていると感じると思います。

裏を返せば、それだけテスラのEV事業に対する期待値がいかに高いかを高株価は示しているのです。もちろん、世界的な金余り現象と低金利、割高とみていたショート筋の買戻し(ショートカバー)、テスラの持つビジネスモデルがコロナウイルス禍でも影響を受けにくいことが株価高騰につながるていることは言うまでもありません。

ここで考えなければならないのが、EVの普及に不可欠なブレークスルーと開発に要する時間軸が重要であるという1点に尽きます。将来に対する期待値が高いということは時間が経過するにつれて実績・近未来の予測が期待を裏切るような事象が起きると当然株価は調整することになります(逆のケースもありうる)。ちょうど、アマゾンの株価が割高に買われていた数年前にその後の収益が劇的に向上し、対面販売企業に対しても影響が出てくると株価がさらに高く評価されたことを見るとわかりやすいと思います。

技術開発のブレークスルーとなるのが高性能リチウム電池の開発であると言われています。その開発には少なくても4~5年はかかるとみられており、EV関連企業の評価が固まってくるにはまだまだ10年単位の時間がかかることになります。

このメモで伝えたかったことは、テスラを高評価する条件が足元揃い過ぎ、期待値が膨らみ過ぎている一点に尽きます。EV化の流れは止まらないとみられますが、進捗が流動的であったり、足元でいいポジションを取っているにしても、テスラを凌ぐようなEVメーカーが出現するかもしれません。EV産業の発展・成長は期待できても、個別企業に付きまとうリスクは大きい訳です。

そうであるならば、テスラの時価総額がトヨタ自動車を上回るような逆転現象が続くための必要条件としては、市場の期待に応える十分な株価材料を提供し続けなけばならないことになります。ですが、こうした条件をクリアするためのハードルはかなり高そうです。

ところで、2018年年初にEV市場に期待していくつかのEV関連株式投信ファンドが設定されました。2018年2月のNYダウ高値直前で設定時期が悪かったことに加えて、トランプ大統領の通商政策による影響を大きく受ける格好でその後の基準価額は最大で30%程度下落しました。それが、足元の基準価額は設定時の水準まで回復してきています。

長くなりましたが、トヨタ自動車のEV戦略にかかわる話題にはあまり触れませんでした。関連情報に関しては専門誌に解説を譲るとして、トヨタ自動車の経営等に関する情報としてトヨタ自動車をモデルにしたといわれる「トヨトミの野望」(小学館文庫)が個人的には面白いと思います。最近出版されたトヨタ自動車に関する書籍(「豊田章男」(東洋経済))もありますが、一読をお奨めします。

Malon, 7. 17. 2020

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