見出し画像

切符

「切符を拝見いたします。」
今日も私は車内をまわる。
この列車で勤務することになって、大勢の乗客たちの切符を検めてきた。
切符は、乗客たちが最初に出発した故郷の星がわかるように作られてあった。
それぞれの星の切符職人が、星にちなんだ特徴のある切符になるように趣向をこらす。
切符は様々な素材で作られていた。
「音」で作られたものもあれば、「感触」で作られたものもあった。
私はこの切符を検める仕事が気に入っている。
実に豊かな種類の切符がこの列車には持ち込まれる。
しかし、気をつけなければならないのは「電気」で作られた切符だ。
あれには参った。
まだこの仕事についたばかりのころ、そうとは知らずに「電気」で作られた切符を検めるのに、特別な手袋に履き替えずに触ってしまったのだ。
気が付いた時には遅かった。
ピリッと一瞬、感じたかと思ったら、
次の瞬間私は黒い小さな豆粒のように縮んで固まってしまい、もとにもどるために8年も命の泉に浸ることになってしまったのだ。
あれからもう400年は経っただろうか。
今考えれば良い思い出だ。

さぁ、次の乗客の切符は…。
小さな子供が2人、窓の外を覗いている。

「切符を拝見しますよ。」
そう言うと、一人の子供が胸のポケットから丁寧に折り畳まれた「紙」の切符を差し出した。
「紙」の切符は久しぶりだ。
これは、太陽系にある地球という惑星から出発した乗客が持っている。

私は折り畳まれた切符を見て「あっ。」と声を上げた。
子供は不思議そうに私を見上げている。
この子はこの切符に印された行き先の意味を知らないのだろう。
そして、どうやら私のこの列車の旅も今日が最後のようだ。

今日からは、この子がこの列車の車掌になる。
そして私は500年の旅を終え、地球へ転生するようだ。




・・・・・・・・・・・・・

あるサークルで、お題をいただいて書いた物語です。

2020年6月に書きました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?