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201912 多国籍模様、雨のエディンバラ イギリス紀行・前篇

 スコットランドの首都、エディンバラ。歴史的な町並みが残る世界遺産の街であることは承知していたが、これほど多くの観光客が集まっているとは思わなかった。
 泊まったホテルはエディンバラ城の近く。そこから石畳の坂道を少し登れば、お城と宮殿を結ぶロイヤル・マイルという観光のメインストリート。道の両側には土産物屋やレストランがびっしり並び、世界中からやってきた観光客が大勢歩いている。あいにく雨が降っているが、傘をさす人は少数派。

 ここへ来るには、一苦労した。ロンドンのキングス・クロス駅から乗車した特急列車が、あと1時間ほどでエディンバラというニューキャッスル駅で、突然、運転取りやめ。全員下車させられ、案内があるまで待て、と放り出された。いつまで待つのか分からない状態でイライラしたくなかったので、駅前からエディンバラまでタクシーで200㎞ほど走った。チップ込みで3万円ほどの出費は痛いが、旅先では限りある貴重な時間の方を優先すべし。
 海鮮レストランで食事した時に、働いていた日本人女性にぼやいたら、イギリスは列車に乗ると2回に1回はトラブルが起きる、と笑っていた。

 エディンバラ市街地は、乗り降り自由の周回バスで回った。バス車内のイヤホンで聴く日本語観光案内のおかげで、この町が観光だけでなく、医学の町としても有名だと知った。クローン羊が生み出された大学のある町だったのだ。

 市内の見所はまず、地元スコットランドの画家だけでなく、モネ、ゴッホ、ゴーギャンなどの名作が展示される国立美術館。そして、エリザベス女王が夏を過ごすホリールードハウス宮殿。もちろん世界遺産。日本語オーディオガイドで聴いた王家先祖たちの争いは血なまぐさい。

 さらに、こちらも世界遺産、エディンバラ城。城砦の上には昔の大砲がずらり並んでいた。海が意外と近く見える。城門前の広場では毎夏、ロイヤル・ミリタリータトゥーという大イベントが行われるが、まだ6月というのにその観客席造りがもう始まっていた。

 中心街を観て回った翌日は、ハイランド地方への日帰りバスツアーに参加した。マイクロバスに乗り合わせた参加者は、インド、ミュンヘン、北イタリア、サンフランシスコ、バンクーバー、スイスなど多様な顔ぶれだった。

 最初の目的地は、ダンケルドという小さな古い村。水量豊かな川が流れていて、ボートの上からフライフィッシングをする人がいた。川縁には、ステンドグラスが美しい古い聖堂が立つ。
 その先、エルミタージュの滝という名勝を見て、ピトロッホリーというビクトリア朝時代からのリゾート地へ。夏目漱石も留学中に訪れたことがあるという。小ぎれいな町並み。小さな駅が町外れにあり、青と白で塗られた跨線橋がかわいらしかった。

 クイーンズビューという展望台から湖と山の景色を楽しみ、バスはアバフェルディ蒸留所へ向かった。スコッチウィスキーのデュワーズ、その核となるモルトウィスキーの醸造所である。
 赤毛の女性が場内を案内してくれた。大きなスチルポッドが4基。熟成用の樽の貯蔵庫。説明の合間に、我々に気を遣ってか、日本のウィスキーの話も。街中のウィスキー専門店にも日本産シングルモルトは並んでいた。
 貯蔵庫での特別試飲は、追加料金が必要だった。シェリー樽で熟成させた20年ものアバフェルディをテイスティング用グラスに注いでくれる。あたりに拡散させるのがもったいないほど芳醇な香り。一口含めば、口の中一杯に濃くて甘い酒精が広がる。初めてのイギリス旅行中で、一番幸せな瞬間だったかもしれない。(続く)


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