ヴェラアズールの勝利で大団円を迎えた、二つのトレンド

 血統はときおり、特定の血が急に存在感を増し、トレンドになることがあります。今回のジャパンCを勝利したヴェラアズールは、まさに“血の勢い”を象徴する馬と言っていいでしょう。

 ヴェラアズールは、二つの血統的なトレンドによって後押しされた馬です。ひとつは「キングズベスト系」の勢い。もうひとつは「母の父クロフネ牡駒の中距離馬」の勢いです。


キングズベスト系のブーム

 ブームが起こったのは昨年の7月。トーラスジェミニの七夕賞を勝利がきっかけとなります。キングズベスト系の産駒による重賞勝利は8年ぶりでした。8年前は海外で繋養されていた時代の産駒。日本に導入されてからの重賞勝利は初の出来事です。長いあいだ存在感を見せていなかったキングズベストの血が、ここから急に勢いを増すことになります。

 同年の冬、ディバインフォース(祖父キングズベスト)がステイヤーズSを勝利。翌週はショウナンバルディ(父キングズベスト)が中日新聞杯を勝利。さらにその翌週もミスニューヨーク(父キングズベスト)がターコイズSを勝利。年が明けた22年の1月にもオニャンコポン(祖父キングズベスト)が京成杯を勝利。キングズベスト系の産駒が立て続けに重賞を勝ったのです。

 そこからしばらく大きな動きはなく、ブームも一段落したかに思えました。そんなとき現れたのがヴェラアズール。オニャンコポンが京成杯を勝ったころ、ダートの2勝クラスを走っていた馬です。それが1年も経たずにジャパンCの勝ち馬になるなんて、誰が想像できるでしょうか。馬自身の強さあってこそとはいえ、それだけでは説明できない驚異的な“何か”を感じてしまいます。トーラスジェミニが起こした小さな波が、最後は巨大なうねりとなり、GⅠ制覇を後押ししたように思えてならないのです。


母の父クロフネ牡駒の中距離馬

 母の父にクロフネをもつ牡馬は、これまで中距離での実績があまりありませんでした。2000m以上のJRA重賞勝ち馬で言うと、21年までは合計でも4頭しかいません(シャイニングレイ、メドウラーク、リオンリオン、モズナガレボシ)。

 ところが22年はプラダリア(青葉賞)、ハヤヤッコ(函館記念)、ガイアフォース(セントライト記念)、ヴェラアズール(京都大賞典)、ブレークアップ(アルゼンチン共和国杯)と、今年だけで5頭も重賞馬が誕生。明らかに流れが変わりました。

 ヴェラアズールの雄大なフットワークは、クロフネの美点がよく表現されています。そこに母の父クロフネ産駒としての勢いが、たしかに存在しているように感じるのです。ガイアフォースが菊花賞で1番人気を背負い敗れたとき、血の勢いをもってしても、さすがにGⅠまでは難しいのかなとも感じました。しかしそんなことは全然関係なかったですね。


大団円を迎えたあとは・・・

 ヴェラアズールのジャパンC勝利によって、ふたつの大きなトレンドは、ひとまず大団円を迎えたと言っていいでしょう。ただし勢いがここで終わるとは限りません。昨年一大ブームとなった「母の父キングヘイロー産駒」は、今年もいまだに存在感をみせています。この流れがどうなっていくのか。つぎはどんな血がトレンドになるなのか。今後が楽しみですね。


オマケ


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