ロードカナロア考察（3） ～柔らかさの源～

★セクレタリアト＝シリアンシー

　ロードカナロアの母・レディブラッサムは、ストームキャットを通じて『セクレタリアト』の血をもっています。さらに牝祖の『シリアンシー』は、そのセクレタリアトの全姉。つまりレディブラッサムは「セクレタリアト＝シリアンシー」３×４の “全きょうだいクロス”をもつ繁殖牝馬ということになります。

　セクレタリアトは軽快なスピードとともに、体質の柔らかさも与える血。レディブラッサムはシリアンシーとのきょうだいクロスを用いることで、その資質を大きく増幅しています。キングカメハメハは繁殖牝馬の特徴を活かす種牡馬ですから、母方の血統内で強調された柔らかい体質は、子のロードカナロアにしっかりと遺伝。そして立派な個性として、ロードカナロアの子どもたちにまで受け継がれています。

★クロス（インブリード）とは
　競走馬の生産において、能力を向上させるために近親交配を行うことは定着した手法です。特定のおなじ血をもつ同士の種牡馬と繁殖牝馬を交配することで血を共鳴させ、その血がもつ個性や資質を子孫へ強く受け継がせることができます。これを「クロス（インブリード）」と言います。
　たとえば現役最強馬のアーモンドアイは、父と母の両方に『ヌレイエフ』が存在しており、この血がクロスによって増幅されています。父方の５代目と母方の３代目にもっており、このような場合ヌレイエフ５×３と表記します。
　ロードカナロアの母・レディブラッサムは、父方の３代目にセクレタリアトの血をもち、母方の４代目にはそれと血統構成がおなじ全姉のシリアンシーをもちます。この場合も血の共鳴は起こり、直接クロスと同様の効果を発揮します。このような場合は「全きょうだいクロス」言い、レディブラッサムは「セクレタリアト＝シリアンシー」３×４と表記します。
（※笠雄二郎先生の方式をもとにしています）

★ストームキャットのクロス

　柔軟性の源泉をつきとめたところで、ひとつ興味深いデータを紹介します。『ストームキャット』の血をクロスしたロードカナロア産駒に注目。該当馬は１４頭いるのですが、勝ち馬になっているのは４頭しかいません。いずれも１勝馬で、微妙な傾向となっています。

★ストームバードのクロス

　今度はストームキャットの父である『ストームバード』をクロスした馬をチェックしてみます。

　該当馬は２６頭いますが、ここからストームキャットを経由するパターンを除外して、ストームバードだけをクロスした産駒を抽出してみると……。１２頭中７頭が勝ち馬で、重賞馬のダイアトニックとキングオブコージが出ています。これはむしろ好成績と言ってもいいくらいですね。ストームキャットのクロスは微妙ですが、その父・ストームバードだけをクロスするぶんには問題なさそうです。

★セクレタリアトのクロス

　ではストームキャットの母の父『セクレタリアト』をクロスした馬はどうでしょうか。ストームキャット経由以外のセクレタリアトのクロスもちを調べてみました。詳細は下記の画像をご覧ください。勝ち馬率こそ平均的ですが、それ以外の数字はかなり低くなっており、目立った活躍馬もいません。どうやらストームキャットのクロスが不振なのは、父方ではなく、母方のこの血に理由がありそうです。セクレタリアトはカナロアの切れ味を司る血だけに、クロスで増幅すれば強みになりそうなものですが、実際は逆の傾向にでています。これは意外ですね。

★柔らかすぎることの弊害

　ロードカナロアはあえて強調しなくても、自然に「セクレタリアト＝シリアンシー」の柔らかさを産駒に伝えます。これ以上なにかをいじる必要はありません。むしろ柔らかくしすぎるとフニャフニャになってしまい、体幹の強さが失われるため、機敏な動きができなくなる恐れがあります。セクレタリアトのクロスが不振なのはその影響でしょう。

★柔と剛のバランス

　切れ味を生み出すうえで、柔らかさは必要不可欠です。しかし柔らかい体質は、素早く動かすことや、可動域いっぱいまで使いこなすことで、はじめて切れ味に昇華します。それを実現させるのは、さらなる柔らかさの強調ではありません。柔らかさを下支えするための筋力（パワー）なのです。
　
　ストームキャットはセクレタリアトの影響で軽いスピードを伝えますが、父のストームバード自体はパワーに優れたタイプ。この血だけを強調できれば土台固めになりますので、クロスした馬の成績データが優秀なのも納得です。柔らかさは特別な個性ですが、競走能力は柔と剛のバランスによって成り立つもの。繁殖牝馬との組み合わせ次第では、恩恵として活かすこともあれば、宝の持ち腐れになってしまうことあると覚えておかないといけません。
　
　
　
【追記】
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