見出し画像

ロマノス・メロドス

ヨセフ・ラッツィンガー氏(名誉教皇ベネディクト16世)の一般謁見演説より、ロマノス・メロドスを扱います。

ロマノス・メロドスは、このように詩作と作曲を行う神学者の一人です。ロマノスは生まれた町でギリシア・シリア文化の基礎を学んだ後、ベリュトゥス(ベイルート)に移り、古典教育と修辞学の知識を完全なものとしました。終身助祭に叙階され(515年頃)、ベリュトゥスで3年間説教者を務めました。その後、アナスタシウス1世(東ローマ皇帝在位491-518年)の治世の末頃(518年頃)、コンスタンチノープルに移り、テオトコス(神の母)教会修道院に住みました。ここでロマノスの生涯の鍵となる出来事が起こりました。聖人伝によれば、夢の中に神の母が現れて、詩作の才能を与えたのです。実際、マリアは彼に巻物を飲み込むよう命じました。翌朝――その日は主の降誕の祭日でした――目を覚ますと、ロマノスは説教台で次のように唱え始めました。「おとめは今日、超実在的〔永遠〕なかたを産み」(『〔キリスト〕誕生の賛歌(一)』序歌〔家入敏光訳、『ローマノス・メロードスの賛歌』創文社、2000年、102頁。ただし表記を一部改めた〕)。こうしてロマノスは死ぬ(555年頃)まで説教詩作者となりました。

一般謁見演説より

ロマノスは歴史の中で、典礼聖歌のもっとも代表的な作者の一人として知られています。当時、信者にとって、説教は事実上、信仰教育のための唯一の機会でした。そこでロマノスは、当時の宗教心を優れたしかたで示しただけでなく、力強く独創的な信仰教育の方法をも示しました。ロマノスの作った詩を通じて、わたしたちは彼の信仰教育の形式の独創性を知ることができます。すなわち、神学的思索と、当時の美しい聖歌の独創性です。ロマノスが説教を行った場所は、コンスタンチノープル郊外の巡礼所でした。ロマノスは、教会堂の中心にある説教台に上り、豊かな聖堂を活用しながら会衆に語りかけました。すなわち、壁画や、説教台に掲げられたイコンを例に用いたり、対話形式を採用しました。ロマノスは「コンタキオン(複数形コンタキア)」と呼ばれる、韻律を踏んだ聖歌による説教を行いました。「コンタキオン」、すなわち「短い棒」は、典礼書、ないしその他の書物の写本の巻物を巻いた小さな棒を意味するようです。ロマノスが作ったとされるコンタキオンは89現存します。しかし、伝統は、ロマノスが数千のコンタキオンを作ったとしています。

一般謁見演説より

ロマノスの説教に強い説得力があるのは、ロマノスのことばと生活がきわめて一貫しているからです。ある祈りの中でロマノスはいいます。「おおわたしの救い主よ、わたしの舌を明快にしてください/わたしの口を開いてください。そしてわたしの口を満たしてくださったとき/わたしの心を激しく貫いてください/それはわたしが話すことばに一致して/確かに教えて行くことを、まず最初に実行するためです」(『使徒たちの伝道の賛歌』1〔前掲家入敏光訳、389頁。ただし表記を一部改めた〕)。

一般謁見演説より

もう一つの中心的なテーマは、当然のことながらキリストです。ロマノスは、当時盛んに議論されていた難しい神学的概念の問題には立ち入りませんでした。こうした神学的概念は、神学者だけでなく、教会のキリスト信者の一致をも引き裂いたからです。ロマノスは、単純ではあっても基本的なキリストについての教え、すなわち偉大な公会議によるキリストについての教えを説教しました。けれどもロマノスは何よりも民間信心に従いました。事実、公会議の思想も、民間信心、すなわちキリスト信者の心による知識から生まれたからです。こうしてロマノスは次のことを強調しました。キリストは真の人にして真の神です。まことの人となった神は、唯一のペルソナであり、被造物と造り主を一つにまとめます。このかたの人間としてのことばのうちに、わたしたちは神のことばそのものが語るのを聞きます。ロマノスはいいます。「キリストは人間であると同時に神であり、二つに分けられぬひとりの人間であったからである/キリストは唯一なる神の子、唯一なるかたであった」(『御受難の賛歌』19〔前掲家入敏光訳、300頁。ただし表記を一部改めた〕)。

一般謁見演説より

生き生きとした人間性、燃えるような信仰、深いへりくだりの心が、ロマノス・メロドスの賛歌の中に満ち満ちています。この偉大な詩人・作曲家は、キリスト教的文化の宝のすべてをわたしたちに思い起こさせてくれます。キリスト教的文化は信仰から生まれます。それは神の子であるキリストと出会った心から生まれます。真理は愛です。この真理に触れた心から、文化が生まれます。すべての偉大なキリスト教的文化が生まれます。信仰が生き続けるかぎり、この文化的遺産も滅びることはありません。むしろ、生きて、わたしたちとともにあり続けます。

一般謁見演説より

次回は「教皇大聖グレゴリオ」とカトリックでは呼ばれる、グレゴリオ1世について扱いたいと思います。

サポートして頂いた金額は、その全額を「障がい者」支援の活動に充当させて頂きます。活動やってます。 https://circlecolumba.mystrikingly.com/