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アツくなる理由▶チャーリー

横浜読書会KURIBOOKSの映画祭の司会を担当しています チャーリー です。

「七帝柔道記」 増田俊哉 角川文庫

という作品があります。
この作品を読んで、とても「アツく」なったという話を聞いてください。(読んでください)

「七帝」は「ななてい」と読み、日本に七つある旧帝国大学(北海道、東北、東京、名古屋、大阪、京都、九州)を指し、これらの大学対抗で行われる「七帝柔道大会」というものがあります。
「七帝柔道記」はこの七帝柔道大会に出たくて 、北海道大学に入学し、柔道部に入部した主人公の二年間が物語の核になります。

当然ですが物語の中心は「柔道」。
しかし、七帝柔道大会の「柔道」は「高専柔道」と呼ばれる特殊なルールで行われます。

オリンピックなどで行われる「柔道」は「講道館柔道」と呼ばれるもので、立ち技が主で、立ち技が決まらなかった場合のみ寝技などに持ち込むことができます。
また、寝技が決まらず膠着状態になると「待て」が入って開始線に戻されます。

これに対して「高専柔道」は、寝技に制限がありません。すぐに寝技に持ち込むことができ、場外も、「待て」もありません。
優勢勝ちもなく、一本勝ちのみなので、そのまま時間切れとなっても負けにはなりません。引き分けになります。

立ち技は選手の「センス」が力の差を生みがちです。寝技はそういうセンスの差が大きくありません。
寝技で責められれば、うつ伏せで身体を丸めて、亀の様になってひたすら防御に徹する事で試合を引き分けに持ち込む事もできるのです。初心者でも、引き分けを目指す「分け役」に徹する事で選手になれます。

七帝柔道に主眼を置くと練習も自然と寝技の練習ばかりになります。まさに主人公のいる北大柔道部はこの七帝戦に的を絞っています。

作品の中では柔道場の畳と、上にのしかかる汗だくの練習相手の身体との間に挟まれて息が詰まる、そんな「アツ」苦しい練習風景が繰り返し描かれています。

もう一つ「アツくなる」ポイントはこの作品の舞台と僕自身に関係する事です。

この小説は作者の増田俊也氏ののほぼ自伝的小説と言われています。
1965年生まれの増田氏は七帝柔道大会に出たくて二浪して、1986年に北大に入りました。主人公は増田俊哉氏自身の姿でもあるのです。

実は僕も増田氏と同じ1965年生まれ。二浪して86年に北海道大学に入学しました。
つまり、この小説の中で描かれる北大周辺の札幌の風景はまさに北大生だった僕が目にしていた風景と同じ時代のものなのです。

おそらく北大の広いキャンパスの中の隅っこにあった柔道場の前を通った時、大学近辺の学生が暮らす木造アパートが軒を並べる通りを歩いていた時、学生がたむろする居酒屋の中にいた時、僕は増田氏をを見かけていたかもしれません。

しかも、クライマックスでもある七帝戦で、対戦相手の東京大学には僕の高校の同級生が何人か名を連ねていました。

僕と同じ時代に同じ大学に通っていた主人公が、僕の高校の同級生たちと対戦する、そんな事が作品として描かれている、そして僕はその本をたまたま読んでしまった。

僕はまったくの部外者ですが、一読者に過ぎませんし、柔道の試合なんて観戦したこともありませんが、なぜかその場の歓声の中にいるような感覚にとらわれ、ページをめくりながら僕はアツくなってしまったのでした。

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【投稿者】チャーリー


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