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コロナ禍の航空業界でいま起きてること

世界中のエアラインが瀕死状態だ。
コロナショックを受けて航空各社は世界的に苦境に追い込まれており、オーストラリアでは大手のヴァージン・オーストラリア・ホールディングスが経営破綻、アメリカでは米航空大手4社(デルタ航空、アメリカン航空、ユナイテッド航空、サウスウエスト航空)は2020年1~3月期決算で全社が赤字に転落した。

著名投資家であるウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャー・ハザウェイ社は保有していた米航空株を全て売却したと発表し「世界が変わった」とコメントした。

日本の航空会社も例外ではない。
特に国際線は壊滅的だ。
成田空港で国際線は1日に1桁便しか飛んでいない。
航空業界は世間の人が思っている以上に壊滅的な状態になっているので本noteには航空業界の現状を纏める。

航空各社がコロナによって受けた打撃

 ANAは2019年10〜12月期までは売上高が過去最高ペースだったが、コロナで運命が180度変わり、2020年1〜3月期は過去最悪の赤字をたたき出した。主な航空会社の赤字額とコメントは以下の通り。

・ 米航空会社4社の赤字額は合計45億ドル(約4,800億円)を超えた。
・ アメリカン航空グループが22億ドル(約2,300億円)の赤字を計上
・ ユナイテッド航空は17億ドル(約1,800億円)の赤字を計上。
・ ANAHDは588億円の営業赤字で、四半期の赤字としては過去最悪
・ JALは195億円の営業赤字を計上。12年に再上場して以来、初めての赤字

各社経営陣のコメント
ユナイテッド航空ムニョスCEO:「航空史上、最悪の危機」
デルタ航空バスティアンCEO:「需要がほぼゼロになった」
ANAホールディングス 福澤一郎常務:「過去最悪の数字」
JAL菊山英樹専務:「過去の事例から類推できないほどの打撃」

各社とも過去に類を見ないほどの打撃とほぼ同じコメントを出している。

コロナショックが直撃した航空業界

新型コロナが世界中で猛威を振るい始めたのが2020年2月。

それに呼応するように、渡航制限や移動自粛による搭乗者の減少が徐々に見られるようになった。そしてWHO(世界保健機関)がパンデミック化を宣言した3月以降、航空各社が減便や運休を本格化したことでヒト・モノの流れが止まり、旅客収入が大幅に落ち込んだ。
海外出張はほぼ全て自粛、海外旅行も滞在先で2週間程度の隔離が行われるので飛行機を使った国際線の移動は限りなく0に近づいた。国内線の移動需要はまだ多少残っているものの国内・国外を合わせた4月~6月の搭乗需要は90~95%の減少を見込んでいる。
航空各社は支出削減を強化し、事業継続のためのキャッシュをかき集めている。

航空業界の収支構造

航空会社の事業は、航空輸送事業と、非航空輸送事業で成り立っている。メインは航空輸送事業であり、旅客と貨物などの航空輸送サービスと、それに付帯するサービス。
非航空輸送事業は、航空機整備、商社、物販・小売、旅行代理店、レンタカー、クレジットカード、ケータリング、ホテル、不動産、貨物取扱をはじめとする物流、物流に関連した機材の製造・組み立て・修理などである。
一般的に航空輸送事業が航空会社の連結収益の8割から9割を占める。
航空産業の主な費用項目は以下の通りで、2/3が固定費、1/3が変動費といったコスト構造になっている。

○ 航空機の運行費用…燃料費
○ 空港経費…空港での業務費用
○ 航空機の整備費…交換部品代
○ 販売費用…航空券の販売費用、宣伝広告費、旅行代理店への手数料
○ 旅客サービス…機内サービス費用
○ 輸送関連…地上での輸送費用、機内販売費用
○ 人件費…パイロット、空港従業員、整備士、客室乗務員等
○ 一般管理費…本社機能の費用
○ 減価償却…航空機、その他機材の減価償却費

ANAの平常時の国際・国内線の収入は月平均で約1,000億円。
売上高の約9割が費用、そのうち固定費は費用の6割を占めるので月々の固定費は540億円、収入が90%減になったとすると月々の収入が100億円、固定費が540億円かかっているので毎月約440億円のキャッシュが固定費により消失する。
これに一定の変動費が加算されるので毎月500~600億円のキャッシュが流出していることになる。これが今、航空業界が躍起になってキャッシュを集めている理由である。

コロナショックを受けてANAが取った対応

日本の航空会社であるANAとJALの危機を助長するのが、ゴールデンウィーク(4月29日〜5月6日)の予約状況だ。
例年なら航空会社にとって稼ぎ時だが、2020年は目を背けたくなるほどの数字になっている。
一年で数回しかない貴重な稼ぎ時であるGWを失い、夏場のレジャー、帰省シーズンの収入も見込めない。
航空会社は上半期で一年の利益の70%を稼ぐのでコロナショックによる2020年の黒字化は早くも諦めモードだ。

航空各社の当面の戦略は出血を抑える(=コストカット)、出血多量で死亡しないための輸血(=資金調達)に注力することだ。
コストカットの点で見るとANAとJALではANAのほうがコストカットの余地がある。JALは2010年の破綻で大幅にコストカットを図り固定費用を削減してきたからだ。但し、コストカットは痛みを伴うのでANAが負う傷はとても大きい。
ANAは4月末時点で、グループ会社22社:3万5000人を対象としている一時帰休を5月末までに同35社:4万2000人に拡大。人件費だけで約300億円/年を削減する。また、新卒採用の抑制も示唆するなど、コスト削減に努める。
加えて古い機体の引退を前倒し、維持費用を削減、設備投資の中止等により年間で1,000億円程度の費用削減を実施する予定だ。
皮肉にも先日ANA専用の国際線ターミナルとして運用が開始された羽田第二ターミナルの賃料はコストカットし難く、非常重い固定費としてANAにのしかかるだろう。

航空会社が調達すべきキャッシュの額はワーストシナリオを想定した “この状態が1年続いたとしても乗り切ることのできる額”だ。
ANAはコミットメントライン(融資枠)の契約、危機対応融資の調達に向けて奔走している。当面の運転資金は確保したようだが、withコロナのこれからを考えると頭が痛いのが経営陣の本音だ。

航空業界の今後 

コロナショックは、バフェット氏をもってしても、想像しえなかったインパクトだ。
半強制的に活性化したデジタルコミュニケーションによりオンラインの有効性が実証されたので、オンラインツールは人々の生活に当たり前のように存在するようになった。
今後は航空券代金・移動時間というコストを払ってでも必要とされていたコミュニケーションやグローバルビジネス不要論が世の中を席巻し、航空需要は激減する。但し、航空産業は未来永劫不要な産業ではないので航空市場は縮小することはあっても無くなることはない。
なので世界の航空市場は一旦、大きく縮小し、ゆっくりと回復するであろうが、それがコロナ前までに戻るには相応の時間がかかる。
航空会社は非航空系の売上増といった転換も求められることになる。
一旦、落ち込んだ航空市場に見合うまで企業が縮小するだろうから航空業界の地図も大きく変わるだろう。
想像もつかないような企業との組み合わせも起こるかもしれない。
コロナショックは航空会社が頑張った所でどうしようも無い位の需要を奪っていったので従来のビジネスモデルでは今後の社会を乗り切れないことは明白だ。

対面コミュニケーションの必要性もしばらくすると再評価され、旅行のニーズはまた戻ってくるので今は耐え忍ぶ時期だ。

ANAとJALの統合

2010年のJALの会社更生の際、航空会社は1社で良いという議論が勃発した。今回も両社を支援する融資額を見た国民の間でこの手の議論が再燃するだろう。
利用者目線で語らせてもらえば国内に航空会社は2社あった方が圧倒的にメリットが大きい。
実際、JALは破綻後サービスが大きく改善された。
これはANAという競合がいる中で生存競争にさらされたからだ。
1社だけになると運賃を含めた様々な場面で競争原理が働かなくなるので2社体制は堅持すべきだ。
そもそも企業文化が違う二社が一緒になると他の業界の合併と同じで、たすき掛け人事が始まりろくなことにならない。
仮に統合したとしても統合後の航空会社は破綻前のJALのようになるリスクが高まる。 

日本の航空会社が提供する定時運行へのコミットメントや乗組員のナチュラルな接客は世界の航空会社と比較しても稀少だ。日本の航空各社は、社員・株主・社会への目配りのバランスが上手くとれている世界でも有数の航空各社で日本の誇るべき翼だ。
日本の成長戦略には、二つの強い翼が欠かせない。

新型コロナウィルスに変化を強いられる航空業界

ウォーレン・バフェット氏が「世界が変わる」とコメントしたようにコロナ後は大きく世界が変わる。
残念ながら、この変化により窮地に立たされる業種はいくつか存在する。
航空業界はその1つで、一度失った需要・売上を後から取り戻せず、コロナ危機下で打撃を受ける。
車・住宅・その他耐久消費財などの大きい資産の購入は、コロナ危機収束後に、一時的に購入を控えていた人達による特需があるだろう。
だが今年使用されなかった旅行資金は来年の旅行資金に回されるというよりも、ステイアットホーム下での娯楽消費などに使われるだろうし、出張経費も悪化した業績回復に充てられるため航空業界には戻ってはこない。
コロナウィルスによる感染症の恐怖はワクチンが出来上がるまでまだまだ続く。
覆水盆に返らず、古き良き時代は戻ってこない。
世の中の多くの人は既にコロナ後の世界を見据えて動き始めている。

航空産業はコロナショックの短期的ダメージだけでなく、ウィズコロナの世界で長期的にダメージを受ける。
航空各社は旅客需要を新時代の適正な規模に補正するまで苦しい舵取りが待ち構えている。
その結果、海外旅行は再び高額な富裕層によるだけのものになってしまうかもしれない。
ただ、観光客もビジネス客もゼロにはならないので航空業の維持は必須だ。 

航空会社はビジネスモデルの変革を強いらながら生き残る道を必死に探すだろう。
ただ、航空業界は911のテロの後でも復活した業界なのでワクチンや薬の整備によって揺り戻し余地は十分にある。
航空需要の長期トレンドは特に東アジアを中心とした新興国で増加傾向だったので需要面だけ見れば今と(数か月前の状態と)変わらない航空業界があるかもしれない。今後の航空業界の動きに注視したい。

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