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暮瀬堂日記〜かたばみ

 曇りなのか晴れなのか判然とせぬ日が続いている。油照(あぶらでり)にはまだ早いが、もう間近なのか、先年為した一句が思い出された。

   賽銭のうまく入らぬ油照

 今日の仕事始めは新宿である。閑散とする都庁前を通り、突き当りのワシントンホテルに納品があるのだが、待機していた私は、都下の片隅に咲く花は無いかと探していた。すると、街路樹の下に隠れるように、ムラサキカタバミを見つけた。イモカタバミとよく似ているが、雌蕊が白いのでムラサキの方である。ちなみに、イモは黄色で虫を待っている。
 誰も気にも止めず素通りするが、私に見られて恥らったのか、仄かに赤みを増したようである。

   街路樹の陰にかたばみ背に都庁

 かつて母にその名を聞いて覚えたのだったが、主張し過ぎない品の良さに、今でも目にするとひと時足を止めてしまう、床しい花である。

※油照……あぶらでり。日が照り、無風で湿度高く、べとついた汗をかくような天気。


(二〇二〇年 六月六日 土曜 陰暦 閏四月十五日 芒種の節気 蟷螂生 【かまきりしょうず】候)

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