白と黒がおりなす紅

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この世界は真っ白だ。潔白という白さでは無い。何も無い、無だ。君がうんだのは僕だった。名前もまだない男の子。体型は細身で、片目が前髪で隠れてる。体育座りばかりして必要になれば答えなきゃいけない役割がある。それが与えられた僕の仕事だ。体育座りばっかで退屈だ。僕には話し相手がいない。いいさ、君には僕がいる。たとえ現実世界が1人だろうが、孤独に感じようが、僕がいる。寂しくなんかないだろう?あぁ、僕も寂しくない。だって僕は、君のように意志を持つ人間じゃないからね。まるであやつり人形だ。君の望む言葉を発する代弁者だ。平凡がいい。君が荒れると僕の世界も荒れる。気が狂いそうだ。

「なんでいつもこう…自分が悪いんだ…自分がいけないんだ…」また君は同じことを言っている。
「君はいつもそうだ」
これがお決まりの文句。嫌がる言葉と知ってる。言われると余計病んだり、泣いたりしているね。遠巻きから哀れな人として見られているような距離感が嫌いなのだろう。この言葉に込めた本当の思いに君はいつ気がつくだろうか。
知ろうともせず、君はまた泣いて、”いつも私はこうだ”と何度も何度も心の中で呟いた。こっちはおかげで頭が痛い。もっと自分を大切にしてほしい。自分に向けたトゲが心に何度も刺さり修復が効かなくなってきている。それを見て僕の心も痛むんだ。もういい加減にやめてよ。だけど僕の言葉は届くことは無い。君が求めてないからだ。

自分が傷つくことを悪しとしない。むしろそうすることで安定を計っている。なんとも滑稽だ。そんなもので安定がはかれるもんか。お前の中はこんなにも乱れ狂い痛々しいのに。真っ白な世界に少しずつ亀裂が入っていることもきっと知らない。僕はどうなっても知らないからな。その言葉も届かない。
包丁を手にした。しかし泣いて握るだけ。外に出ては死にたいと思うばかり。いっその事みんなの記憶の中から消えてしまえば、最初から生まれていなければ。そんなこと考えて生きているだなんてなんてつまらない日々だ。本当に時間の無駄だ。だが僕は寂しい君が好きな子を演じさせられる。窮屈で仕方がない。

僕には意思がない。初めに言った通り。この中で描かれる僕は書き手が作った想像の僕だ。本当の僕か分からない。また命を宿らされたと言わざるを得ない。だがそれでいい。僕はそれでしか生きられないのだから。君の中で生きる僕が、本当の僕なんだ。
君は仲間を作ろうとしてくれた。いつも寂しそうだからと、姿のよく見えない女の子とチンピラみたいな金髪の男がどこからか現れた。どーゆう趣味してやがる。もっとマシなやつはいなかったのかよ。落胆しても仕方がない。これはお前の中に眠る違う顔だ。はぁ。迷惑なやつだ。仲間なんていらない。僕は1人でいい。

案の定奴らはすぐ消えた。本当にわけが分からない。仲間が増えて楽しそうにした君と、増えたことで不安になった君は同じなのだろうか。なぜ君の中の僕がこんなことを考えなくちゃいけないんだ。どっちが自分なんだよ。
今日もまた自分を傷つけている。それでも耐えて耐えて、泣いて泣いて、1人で抱え込んでいる。僕はただ壊れかけの世界で呼ばれるのを待つだけ。いつだってどうにでもなれる。君が望むならば。この世界だって、壊せる。亀裂が止まらない。あぁ。君は僕のせいにするんだね。そうか。僕が化け物になって自分のすむ世界を自分で壊した…そういうシナリオなんだね。なんて悲しいヤツだ。お前なんか…お前なんか…

僕は心の中で泣いた。心があるのかも分からないけれど、涙を流すことは出来ないから。気持ちだけ泣いた。本当にただの化け物だ。世界を食い荒らす悪い蜘蛛。元の姿かたちもありゃしない。君が望むシナリオだ。優しくてどこか寂しくて、問いかけに答えてくれる僕はもう居ない。君のために、最後まで演じてみせる。こんなこと…したくないよ…世界は大きく壊れ崩壊した。私は私の中の子が壊したと思っていた。こんなにも悩み苦しかっただなんて気づいていない。私は何もかも上手くいかなくなり、全てを放棄した。頼る人がいなくなったとは思わない。本来頼らなくていい人だからいなくなってよかったんだと思った。しばらく穏やかにすごした。でもこれがまた悲劇の始まりとなったのだ。

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