「現代川柳ことはじめ」4月の振り返り

ミニ講義「言葉遊びと日本語遊び」

背景

4月期の1回目。新しい受講生の「現代川柳」との距離感がわからないということもあり、SNSで広く注目を集めている淀川テクニック『コラージュ川柳』(宝島社)を読んだ。
わたしは、川柳は「言葉遊び」ではないが「日本語遊び」ではあると思っている。著者本人が「言葉遊び」という「コラージュ川柳」にも「日本語遊び」の要素はある。以下の鑑賞で示していきたい。

鑑賞

【良いと思った句】

北海道 広がっています のびのびに(34頁)
土地が広がる。そう聞いて真っ先に思い浮かべるのは「領土の拡大」のイメージだ。周辺の土地を侵略し、土地を広げる。しかし、最後の「のびのびに」でその想像は覆される。ゴムのように伸びる北海道。「土地が広がる」という日本語の内容が書き換えられる。

人さし指 眺めていると 伸びるのか(100頁)
一見「人さし指が伸びる」という景がおもしろいように思えるが、実際は、「眺める」という行為の内容が更新されているところがおもしろい。「眺める」という行為に「ものを伸ばす」という効果は本当はない。でも「伸びるのか」と言われると、そうであるような気がしてくる。

長いひげ カレーライスを つけるんだ(111頁)
「つけるんだ」がおもしろい。長い髪、長い髭……そういうものにカレーライスは「ついてしまう」ものであって、「つけるんだ」と決意するようなものではない。「つけるんだ」という日本語に込められた意志の力のようなものがなにか曲がった方向に発揮される。

【いまいちと思った句】

素潜りで 近づいてくる すし職人(94頁)
「のびのびに」、「眺めていると」、「つけるんだ」が掛け算や割り算のようなものであったとすれば、この「素潜りで」「近づいてくる」「すし職人」は足し算だ、という感覚が……伝わるだろうか。「素潜り」「近づく」「すし職人」という言葉の内容が保存されたまま積み重なる。景としてはおもしろいが、それ以上のものではない。

ズワイガニ 人間宣言 説明会(2頁)
巻頭にカラーイラストとともに掲げられた句。しかし、「人間宣言」という言葉が〈おもしろい〉のは、本当は人間である(と平成生まれのわたしは思う)天皇がわざわざ人間であることを宣言したという歴史があるからだ。そうした背景を捨象してしまうと、「人間宣言」のおもしろさは激減する。ズワイガニが人間宣言をするのは、あたりまえ。

ワーク

「現代川柳」と「コラージュ川柳」はどのようなところが違い、どのようなところが同じなのかを考えてもらった。

現代川柳ことはじめ

場所:NHK文化センター青山教室/オンライン
日時:毎月第四火曜日19〜21時
料金:1回あたり4,004円/3,850円

投句なしで無料の「見学」(ミニ講義+句会の題詠部分まで見ていただきます)と、投句ありで1回分の受講料をお支払いいただく「体験受講」もあります。電話で予約してください。

次回予告

「オルガンとすすきになって殴り合う」(石部明)など、読みが一義的ではない句の読みについて徹底的に話し合う。

いただいたサポートは「川柳句会こんとん」の運営に使わせていただきます。