「伝えること」と「伝わること」

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                       2019/06/14 第522号
          ☆★☆ TIPS通信 ☆★☆
       ▼消費生活アドバイザーの知恵が満載▼
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【 「伝えること」と「伝わること」 】

暮らしいきいきアドバイザーの晴兵衛です。

今回は、「伝えること」と「伝わること」と言う、へんてこなタイトルのお話です。私は、昨年一年間に渡り、素人ながら消費者教育の講座に明け暮れました。何しろ消費生活の相談経験もなければ、特商法だのクーリング・オフなども詳しくありません。つまり、受講者と同じレベルなのです。
ところが、このことが思わぬ反響で、ご高齢の方から「あんたの説明は、分かり易い!」という評価を受ける事に!
素人なので、受講者から難しい質問をされると答えられません。したがって、難しい単語や法律は、自分のレベルで理解できる言葉に置き換えます。おそらく、専門家から見ればなんと稚拙な講座であることか?と誹りを免れないかも知れません。でも、伝わり、理解されています。自画自賛はこれ位にして、本題に入ります。

2022年4月の改正民法の施行により、成年年齢が現行の20歳から18歳に引き下げられます。それによって、社会経験の乏しい若者が消費者被害に巻き込まれるのではないかと危惧されています。文科省、消費者庁は若年層への消費者教育を充実すべく、高校生を対象とした授業に力を注いでいます。
消費者庁が「社会への扉」という統一テキストと教員用の虎の巻も作成し、全国の高校へ、希望が有れば無償配布するという力の入れようです。

私も一応高校教員免許はありますが、自動車で言うならば完全なペーパードライバーです。昔憧れていた教員の真似事で、21コマ(1700人)授業を実施しました。

私の予習も兼ねて、実際に高校で使われている文科省検定済家庭基礎の教科書をみると、かなり詳細に記述されています。消費者の定義、契約とは、消費者トラブル、多様化する販売方法(ネット通販、無店舗販売、問題商法)消費者契約法、特商法、クレジットなどなどこれらをマスターすれば万全です。その他、製品事故とPL法、消費者の権利と責任、持続可能な社会環境、生活経済など非常によくできています。
家庭科の授業で、消費生活に割ける時間は、どれ位なのか先生に聞いてみると、殆どの先生は「1コマ(1コマ=50分)程度なので、クーリング・オフとういう単語程度は知っていると思います」という回答でした。

どの様な内容で授業をするか?高校生に興味をもって聞いてもらうにはどうしたらよいか?授業する前に、先生に必ずする質問があります。それは「どんな生徒さんですか?」と投げかけます。すると、殆どの先生から「おとなしい生徒たちです。多分、反応がいまいちでしょうね!」という事で、近頃の高校生気質なのでしょう。

授業の内容は、基礎的な事項にフォーカスする事にしました。なぜかというと、消費者トラブル事例ばかり並べると、応用問題が解きにくくなるのではないかと思ったからです。
契約の基礎、お金の話の2項目です。しかも、平易な表現で、高校生には易しすぎるくらいの内容です。事例は、SNSにまつわるトラブル事例、ネット通販を紹介しました。これで50分目いっぱいです。一番気をつけた点は、ものごとには、利便性とリスク(危険性)があるという説明です。代表例として、クレジットカードの使い方についてです。

そして、私の講座を評価する目的でアンケートを実施しました。

アンケートは、予想に反して多くのフリーコメントが書かれていました。
その中で、クレジットカードについて、「使い方を誤ると怖いので、持たないでおこう」「楽で、便利なものだと思っていたが少し怖くなった」「カードは使わないと決めた、金銭感覚が鈍る」等、後ろ向きなコメントが散見されました。クレジットカードは、正しく使えば便利なものである反面、確かにリスクもあります。利便性とリスクを均等に伝えたつもりでしたが、リスク情報だけが伝わってしまったようです。
高校生ですから、クレジットカードの経験値がありませんので、見えないものに対する不安が支配的になったのかもしれません。

授業の回数を重ねるたびに、伝える手段を試行錯誤してきました。しかし、それが必ずしも、こちらの意図するように伝わるものではないという現実があります。もちろん、こちらの技量に依存するところは大きいので、今後の課題です。

一連の授業で私は教えるという意識を持たないようにしています。あくまでも、私の持っている知識を伝える事です。伝えたものを生徒がどのように咀嚼し、今後に活かしていくかは、生徒自身が考える事だからです。
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