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アレチヌスビトハギ

こんにちは。身近な自然観察アドバイザーのmimosaです。

最初に、前回私が執筆して2021年11月にまぐまぐ!で発行した「ひっつきむし」というタイトルのメルマガの、後半に記載した植物の種名「アレチノヌスビトハギ」は、「アレチヌスビトハギ」の誤りでした。ここにお詫びして訂正いたします(noteのバックナンバーは訂正済みです)。

さて、アレチヌスビトハギといえば、ある日、職場でこんな出来事がありました。自然環境調査(植物調査)の現場から戻って来た若者に「お疲れさま!」と声をかけて、その姿を見て驚きました。足元から胸元にかけて、アレチヌスビトハギの枯葉色のタネ(果実)がびっしりと衣服にひっついていたからです。それも凄まじい数で、ぱっと見ただけだとズボンやジャケットの模様に見えます。地上から湧き上がる炎のデザインのようだといえば、少しはイメージが伝わるでしょうか。たまたま部屋に入ってきた人たちも、彼の異様な姿を見るなりギョッとして「うわぁ、ひどいな!」と驚きの声をあげていました。

それほどの数の「ひっつきむし」を取り除くためには、とてもひとつずつ剥がすわけにはいきません。経験豊富な上司が「ゴム手袋なら、ひっつかないぞ。」と言うので、試しに背中のタネ取りを手伝ってみました。確かにゴム手袋には付きませんが剥がせる数が知れていました。結局、いちばん効率が良かったのは、プラスチック製の名刺サイズのカードでこそげ取る方法でした。当人が「これが一番いいね。」と手にしているカードは、彼の顔写真の付いている職員証でした。「職員証って役に立ちますね!」と笑いながら、でも必死で剥がし続けて、すべて取り除くのに小一時間ほどかかっていました。

この日、植物の専門家である彼は、数箇所のため池とその周辺の植物調査へ出かけていました。時間に余裕があれば、密生するひっつくタネの植物はある程度刈り取ってから調査しますが、夕暮れて暗くなる前に、急いで調査を済ませようとして、草むらに分け入ったようです。普通はこのような場合、その場でできるだけ「ひっつきむし」を剥がそうとするでしょう。ではなぜ、彼は大量のタネをつけたまま帰ってきたのか。それには植物の専門家らしい理由がありました。「厄介な植物の種をあちこちに落として、生育範囲を広げないため」です。前回も書いた通り、アレチヌスビトハギは生態系被害防止外来種リストに掲載され、対策が必要とされている植物です。タネをつけたまま車を運転して職場に戻り、部屋の中で取り除いたタネは、すべて可燃ごみとして処分することで生育範囲を拡大させないという配慮でした。

この出来事からもう一つわかることは、調査に行ったため池の周辺は草ぼうぼうで適正な管理がされていないということです。管理されているため池は、雑草があまり生えていない、草丈が低く揃っているなど、見た目もきれいです。近年、ため池は農業用水の確保以外にも、雨水の洪水調整や多様な動植物の生息・生育の場、美しい水辺の景観や地域の憩いの場など、その多面的機能が注目されています。また、ため池の堤体(土手)は適正な管理を行うことで強度が増し、漏水や亀裂も早期に発見しやすくなるので安全性も高まります。

今後は、自然環境調査を依頼した新たなため池管理者が、草刈りなどの管理を行うことになるでしょう。管理にあたっては、対策が必要な外来種であればタネができる前に刈り取りをして、キキョウやオミナエシなど在来の草地の植物が運よく生育していれば、結実してタネを落としたあとに刈り取りするなどの配慮がとても大切です。里山の環境は、人が適切に関わることで豊かに保たれています。つまり、ため池管理者の環境に対する意識や取り組みが、これからのため池やその周辺の景観に大きく関係することになります。

※写真出典「但馬情報特急」
「アレチヌスビトハギ これも抜き取りましょう」より
https://www.tajima.or.jp/nature/plant/164136/

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