83についてのお話

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                       2019/04/26 第515号
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【 83についてのお話 】

こんにちは。身近な数字のアドバイザー ナカナカです。
今回の身近な数字は83。「鋏(ハサミ)」についてのお話しです。

一昨年亡くなった義母の遺品を整理していた時のこと、洋裁に使う「裁ち鋏」が3本も出てきました。大きくて立派ですが、サビもあり切れ味は良くありません。せっかくの鋏ですから、専門家に研いでもらって大切に使わせてもらうことにしました。

ところが、鋏を研いでくれる専門家が近所に見つかりません。包丁研ぎを専門にしているお店でも鋏の研ぎは断られてしまいました。仕方なくインターネットで探すと「布切り鋏・糸きり鋏の研ぎのスペシャリスト」という文字が飛び込んできました。群馬県桐生市の研ぎ専門店のホームページです。しかも「全国対応 宅配便にて受け付けております」と書いてあるではないですか。何て便利な世の中でしょう。私の住む兵庫県から500km以上離れたお店に鋏の修理をお願いできるなんて夢のようです。

ただし、発送の前に鋏の写真をメールに添付して送るようにとの注意書きがありましたので、まずは3本の鋏を並べた写真を送ったところ、次のような回答がありました。
「写真を見させていただきましたところ、3本ともおそらく初めからあまり鋼の入っていないハサミだと思われます。大変残念ではありますが、こちらのハサミは、お送りいただいても研げずに、そのままお返しするようになってしまうと思います。」

良心的な店主はさらに「もしこれから洋裁用の鋏を買い求めるのであれば、硬刃SLDと記されているものがお勧めです」との情報も付け加えてくれました。研げない鋏と硬刃SLD、鋏と鋼の関係はどうなっているのでしょう。

日本の高級鋏は、地金の軟鉄と刃金(鋼)を合わせた複合材を高熱で鍛造して作られます。鍛造というのはハンマーなどで金属の加工物をたたいて目的の形に成形する方法です。「鍛えて造る」という言葉通り、素材が粘り強くなるため衝撃に強い性質を持つことが特徴です。鋏の刃の部分は硬い鋼で鋭い切れ味を、刃を支える部分には粘りと耐久性を持つ軟鉄をと、それぞれの特徴を活かしたこの製法は、刀鍛冶の歴史がある日本ならではの伝統的な技術ということです。

さて、鋼と鉄は何が違うのでしょう。鉄は炭素がほとんど入っていないために軟らかいのですが、鉄に炭素がわずか0.04~2.1%入っただけで硬い鋼に変身します。ちなみに炭素が多すぎると脆い鋳鉄になってしまいます。また、
鉄と炭素のみからなる鋼を炭素鋼というのに対し、特殊な金属を含むことによって炭素を超える性質を持つ鋼のことを特殊鋼と呼びます。

研ぎの専門家が私に勧めてくれた硬刃SLDはハイカーボン合金鋼というステンレスの合金鋼です。非常にサビに強く、従来の裁ち鋏が対応できなかった化学繊維に強い刃材として開発されたものでした。鋼の性質がある程度わかったところで、私はこのSLDの裁ち鋏を購入したというのが今回のお話の結末です。鋏は桐生の研ぎの専門家お勧めの関東の鋏メーカーのものでした。

ところが、今回、鋏を調べてみて、「播州刃物」というブランドがあることを知りました。兵庫県の小野市は230年以上の歴史を持つ家庭刃物の生産地だったのです。小野市とはかなり離れているとはいえ、同じ兵庫県に住む私ですが、せっかくの地産地消の機会を逃してしまいました。本当に残念です。

この播州刃物が後継者不足で危機に瀕していたこと、そして地元の若きデザイナーによってその技術の高さが世界に認められ、職人が自分たちの製品の本当の価値に目覚めたという感動の物語があることは、別の機会にお伝えしたいと思います。

<参考サイト>
鈴木とぎや刃物店 http://www.suzuki-togiya.jp/tog_2.html
美鈴ハサミ株式会社 http://www.misuzu-hasami.co.jp/index.html
播州刃物 http://kanamono.onocci.or.jp/index.html
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