奈良の歴史的医療スポット

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                    2020/12/18 第601号
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【 奈良の歴史的医療スポット 】
 
こんにちは。おくすりアドバイザーの井田です。

COVID19対応では、医療関係者の日々の頑張りが顕著で、今日かつてなく医療そのものに対する関心が強くなっています。日本の医療の歴史を考えるとき奈良にはその足跡を確認する史跡が、何か所か残されています。
今回はそのうちの三か所を皆様ご紹介したいと思います。

 まずは正倉院です。光明皇后による「東大寺献物帖」の中の一巻である「種々薬帖」に献納された60種類の薬物名が記載され、そのうち40種類ほどが現在でも残されています。象の歯の化石で、鎮静作用があるといわれている「五色龍歯」は今年開催された第72回正倉院展でも出陳され、実際にご覧になられた方もおられるのではと思います。これら薬剤は聖武天皇の四十九日、天平勝宝八年(756)六月二十一日にお后の光明皇后が大仏に献納したもので、本来は堂内に安置して仏を供養するためのものなのですが、病に苦しむ人がいればくすりを分け与えても良いとされています。
 「種々薬帖」には、今日でも漢方薬に配合される大黄や人参、甘草といった薬剤も含まれており、近年実施された本格的な科学調査では、数種類が現在も効果を保ち続けていることが確認されました。1300年ほど前の薬物が今も大事に保管されているということは世界に類を見ない貴重なことです。

次に平城京の東端に隣接する法華寺をご紹介したいと思います、
東大寺に聖武天皇にまつわる貴重な品を献物した光明皇后は、仏教思想に基づき貧しい人々や孤児を救済する施設としての「悲田院」や貧しい人々に施薬、治療を行う施設としての「施薬院」を設けました。私財を投じて諸国から薬草を収集し、患者に施したとのことです。この社会福祉の精神は、聖武天皇の1200年御遠忌を記念して昭和30年(1955年)に開設された東大寺整肢園(現東大寺福祉療育病院)の事業に繋がっています。
 病人に対しては父藤原不比等の屋敷であったといわれる地に建立した法華寺に「からふろ」と呼ばれる浴室を作り、皇后自らも病人の垢を洗ったと伝わっております。 
 この「からぶろ」は今の温泉のように浴槽に入るものではなく、薬草を用いた蒸し風呂です。今でも光明皇后のご命日の月の6月に、1日だけ使用されています。
 私も過去にから風呂に入る貴重な体験を致しました。浴衣に着替え小一時間ぐらい室に入るのですが、最初は床下から吹き上がる高温の蒸気で、息をするのも苦しいくらいでした。しかし浴後は身体の不純物がすっかり洗い流され、身体全体が浄化されと感じるさわやかな気分を味わうことができました。今この「からふろ」は国の重要有形民俗文化財に指定されています。法華寺は奈良時代、総国分寺の東大寺に対して、総国分尼寺としての役割を担いました。法華寺創建を発願した光明皇后を写したとされる十一面観音が安置され、光明皇后以降皇室と大変ゆかりの深い門跡寺院です。

三番目の史跡は時代を下って鎌倉時代中期に創設されたといわれる、奈良市の北東に位置する「北山十八軒戸」です。もとは般若寺の北東にあったとされますが、東大寺が焼けたと同じ年1567年に焼失し、現在の場所に移ったとされています。
 西大寺の僧、叡尊の弟子忍性により建てられた施設で、ハンセン氏病等、難病患者の保護や救済の役目を担いました。東西約38mある長方形の建物が十八の個室に区切られており「北山十八軒戸」の名前の由来になっています。奈良から京都に向かう旧京街道に面しており、少し高台になっていますので、東大寺や興福寺の景色も楽しむことができます。

約1300年の歴史を有する奈良で、今も歴史に残る医療や福祉施設の一端を紹介させて頂きましたが、当時は医学的な知見にも乏しく、ほとんどが神仏への信仰等宗教的な力に頼ることが殆どであったと思います。
今日新型コロナウィルスへの対応をめぐっては最新の研究、医療技術を駆使してその対策がなされています。これから先の将来も未知の病原体出現の可能性は高く、人類は新たな対応が求められます。未来の医療から現在の医療技術、医療体制はどのように評価されるのでしょうか?この度のCOVID19に対する経験から得られた知識、情報がさらなる医療の発展に寄与することを願っています。
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