82についてのお話

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                    2019/09/13 第535号
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【82についてのお話 】

こんにちは。身近な数字のアドバイザー ナカナカです。
今回の身近な数字は82。
「82年生まれ、キム・ジョン」という小説が話題を集めています。
2016年10月に韓国で刊行されるや1年間に10万部以上を売り上げたこの小説は、日本では2018年の12月に刊行されました。

著者は1978年にソウルで生まれたチョ・ナムジュという韓国人女性、多くの韓国小説を日本に紹介している斎藤真理子さんが翻訳しています。

原書の表紙は、スカートをはいていること以外すべての個性が失われた一人の人間と、横たわる大きな影のイラストですが、日本語版の表紙は、女性の顔の中に乾燥した土地の風景が広がる印象的なものになっています。

装丁を担当した名久井直子さんは、「社会の中で自分の顔(主体)があやうい」「透明人間のような」状態を表現することを意図したそうですが、この表紙を初めて見た時に私は胸がざわつくような、落ち着きのない感情に襲われました。ちなみに顔の中の景色は、作者の榎本マリコさんが「無意識にその風景を描いている」と言うほど魅了されたニューメキシコ州の土地だそうです。

様々な女性が関わって日本の読者に届けられたこの小説は、精神科医の目を通して描かれ、女性をめぐる様々な統計数字も提示されているなど、小説としては異例の構成ながら、1982年生まれの主人公キム・ジョンが体験した女性ゆえの生きつらさを描いて多くの読者の共感を得ています。

私には主人公と同世代の娘がいて、女子会で盛り上がって終電ぎりぎりに帰ることもあった彼女の独身時代は、1952年生まれの私の青春と比べて随分自由で羨ましいと感じていたのですが、結婚、出産を経た今、主人公キム・ジョンと同様の息苦しさを覚えているとしたら、女性を取り巻く状況は数十年あまり変わっていないのでしょう。

表紙の絵に描かれたニューメキシコ州のアビキュー(Abiquiu)は、かつて女性抽象画家のジョ-ジア・オキーフ(Georgia O'Keeffe)が住み、多くの作品を残した土地なのですが、彼女も夫との関係を含む様々な息苦しさからニューヨークを逃れてこの地に移り住んだという背景を知ると、「82年生まれ、キム・ジョン」日本版が装丁を含めて興味深い本であることが分かります。

韓国小説を読むのは初めてでしたが、とても読みやすいと感じたのは翻訳者の斎藤さんの力でしょう。
しかし彼女は、「韓国語は罵倒語のバリエーションが豊富で表現も厳しいのに比べ、日本語は罵倒語が少なく、原文のニュアンスを的確に表す言葉を探すのにはいつも苦労します。」と述べています。

そういえば一国の大統領が「盗人たけだけしい」と発言して日本人を驚かせましたが、豊富な罵倒語のほんの一部を披露したにすぎないのでしょうか?

このところ、政治、経済で関係がギクシャクしている日本と韓国ですが、女性管理職数や男女の賃金格差などにみられる統計値はどちらもOECD諸国の中で悪い方の順位を争っている点では良く似た存在であることも分かります。
興味のある方は是非ご一読ください。

■参考ホームページ
小説丸 翻訳者は語る
https://www.shosetsu-maru.com/storybox/translator/19
アートペディア/近現代芸術の百科事典 https://www.artpedia.jp/
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