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株主還元方針策定にあたって考えたこと(CEOノート)

代表取締役社長の青木です。
今回は私が上場後最初の決算発表の際に株主還元方針を開示したすぐ後で、自分の整理のために書いた文章が発掘されたので、ちょっとだけ手直しをして公開してみようと思います。

私が株主の皆様含めて当社のステークホルダーの皆様とどのように共にありたいと考えているのかをご理解いただく参考になればと思っています。

以下当該文章になります。


2022年9月14日初めての決算発表の際に、今後の株主還元方針を発表した。

その後多くの機関投資家の皆さんとの面談や、個人投資家の方からのメールでのフィードバックを経て、「フェアだとは思うけれど、わかりにくい」という意見も多かった。

「わかりにくさ」は今回の「投資家」に向けた株主還元の件に限らず、クラシコムが向き合うすべてのステークホルダーとのリレーション構築において常に立ちはだかり、そしてそれを超えて来ることで、ミッションにまっすぐ向き合う自由を維持し、競争に巻き込まれにくいユニークなポジションを獲得することができてきた。

例えばtoCのお客様からすれば、北欧のヴィンテージショップの専門店として始まったお店が年々姿を変え、気がつけば北欧関連の商品はわずかになり、洋服やコスメ、ドラマやドキュメンタリー映像や、ポッドキャストや音楽プレイリストなども内包する魅力的ではあるが、わかりにくいサービス、自己紹介の難しいサービスを展開し、成長させてきた。そしてそのことによってセールやポイント、クーポンなどの販促や、送料を無料サービスすることをほとんどせずともお客様にご納得いただき、お買い物をしていただける関係性を築いてきた。

またtoBのクライアント様からみても、当初タイアップコンテンツによるプロモーションを中心としたブランドソリューションビジネスは「北欧雑貨のECサイトが広告?ブランディング?」しかも決してリーチやPVに対する単価は安価で無い、一体なんなの?わからないし、こんなビジネスはうまくいかないと多くの人にアドバイスされたが、多くのナショナルブランドから信頼を勝ち得て着実に成長し、メディア業界の中でも価値のある取り組みであると一定認めていただける事業になった。

だいぶ前置きが長くなったが、なぜ我々がいつも「わかりにくさ」から始めることになるのか、そして、なぜそのわかりにくさを毎回超えて、むしろそれを強みに変えてくることができているのか、さらに現時点ではまだ十分に「理解」を得れているとは言えない「株主還元方針」の企画意図とその背景、および内容について説明するのが本稿の目的である。

我々はなぜ「わかりにくさ」から始めるのか

「わかりにくさ」より「わかりやすさ」の方が良いのは自明だ。我々も「わかりやすさ」の価値は十分に理解しており、そのためにベストを尽くしている。一方で「わかりやすさ」を至上の価値とは考えていない。時として「わかりやすさ」を手に入れるために「フェアさ」「うつくしさ」「おもしろさ」「心地よさ」をトレードオフすることを求められる場合もある。

我々のミッションや経営方針に照らしてそれがトレードオフできない価値である場合「わかりにくさ」を内包しつつ、丁寧に時間をかけて説明や対話を続けて「わかりにくいけど、わかる」を目指していくことを選択している。

確かに「わかにくさ」を内包したものを「わかりにくいけど、わかる」に転換していくことは大きなコストがかかるが、一方でそれを乗り越えた先には他のプレイヤーが「わかりやすさ」のために捨てた「フェアさ」「うつくしさ」「おもしろさ」「心地よさ」等がある事に気づくこととなり、他の選択肢にはないユニークな価値を感じて強力に結びつく結果が生まれる。この「わかりにくさ」を乗り越えた後の「粘着性」こそが我々の最大の強みである。

我々はなぜ「わかりにくさ」を超えてこれたのか

端的に言って「わかりにくさ」が発生している原因が、多くの人が本来こうあるべき、こうあって欲しいという「理想」を小規模にでも現実的に成立させるためであることに、手間暇かけて気づいてもらうことができているからだ。

サイボウズの社長である青野さんの書いた「チームのことだけ考えた」本の一説に「人は理想に向かう」という言葉がある。人間共通の原理として「理想」を求め、共感し、それを目指したいという特性が備わっており、「理想」を現実的に成立させる様を見せることでステークホルダーと連帯することができることを指した言葉だと理解している。

我々も自分達の私利私欲や怠惰さの結果として「わかりにくさ」を選択しているのでは、決してそれを乗り越えることはできない。あくまでも「わかりやすさ」を追求することで抜け落ちてしまう「理想」を内包し続けるための選択の結果としてのそれでなければならない。

また「わかりにくさ」の原因が「過度な複雑さ」によるものでなく「前例がない」ことが理由であって、「ロジック」「構造」「コンセプト」「ポリシー」と言ったものは一旦受け入れられればシンプルに理解できるものになっていることも我々が「わかりにくさ」を超えてこれた理由であろう。

このように「理想」を内包したわかりにくさであること。ただそれは「前例がない」ことによるわかりにくさであり、実際にはシンプルかつ明確に説明可能なものであること。その「わかりにくさ」を解きほぐした内容を丁寧に自社メディア、他社メディアを通じて発信し続け「わかりにくいけど、わかる」人を丁寧に増やし、「わかった人」が「わかりにくかったが、わかってみれば自分も求めていた理想に近い」と感じて応援してくれるようになることを通じて「わかりにくさ」を強みに変えてくることができた。

今回の株主還元方針策定に至った背景と意図

本来発行体と株主は同じ目的、利害を共有する仲間(ステークホルダー)であるはずだ。しかし一方で現実を見ると、発行体と株主が疑心暗鬼になり、お互いを過度に牽制し合い、奪い合う関係になっていることが少なくないように感じた。

今回の還元策を検討する際には、どうしたら事業の行方が不確実であっても、仲間としてフェアな約束をし、それを果たし続け、信頼関係を構築し、それを健やかに維持し続けられるのか、つまりはどうすれば仲直りできるのかという問いから始まった。

当然に株主から見れば事業が高速で安定成長することにより、時価総額が上がり続けることが望ましいし、期待以上の成長が見られる間は「仲間」でいるのは容易だろう。しかしそのような状況が長期間にわたって続くことを確約することはどのような事業であっても容易ではない。成長がある時期緩やかになったり、場合によっては踊り場を迎えたとしても、どうすれば株主にとって十分ではないにしろ「フェア」な仲間だと思ってもらえるのか、一方発行体としてもそのような時期でも健全に利益を創出して、働く人たちに喜びがあり、次の成長フェーズに向けた適切な投資が続けられる自由を確保できるのか、このような問いをずっと持っていた。

その問いに対しての現時点での仮説は、成長フェーズによって時価総額の向上と、配当などの株主還元を組み合わせてどのフェーズにおいても、フェアに成果の果実を株主と発行体がダイナミックに分け合っていくTSRの観点での還元方針を軸に株主と向き合っていくことである。

高成長時には先行投資含めて資金需要が旺盛であり、その分高い成長スピードが期待され、時価総額も上がりやすく、株主は含み益やキャピタルゲインといったリターンを得ることができるフェーズである。一方で成長が緩やかな時期には株価そのものが上がるスピードも緩やかになり得るが、生み出したキャッシュフローの適切な部分を積極的に還元し、過度の内部留保を行わないことでリターンを返すことができると考えている。またこのようにどのフェーズの場合でも一つのルールで還元の可否や規模が定まる方針を策定することで、発行体の恣意性が働く度合いが減り、ガバナンスの観点からも信頼性が増すことを期待している。

株主還元方針の「わかりにくさ」とそれでも守りたかったフェアさ

上場後初めての決算発表のタイミングで株主還元(配当や自社株買)の可否と還元規模の計算方法を提示したが、その基準がこれまで慣例的によく行われてきたPL上の利益の一定割合を還元基準とする配当性向という考え方や、一株あたりの還元額を最初に明示してしまうやり方ではなく、各事業年度の終わりのネットキャッシュが目標水準に対してどの程度あり、その基準を超えてる場合にFCFの50%を上限に還元するという、BSマネジメントの観点から決めるやり方であることが前例があまりなくわかりにくさの一因となっていると思う。

また還元可否や還元規模が決算が締まらないと確定せず、利益等を基準にするよりも予測が困難であるため、事前に配当規模をアナウンスしにくかったことがわかりにくさを加速したかもしれない。

ただ発行体として実際の資金需要の状況によって柔軟に経営できることと、株主に生み出された果実をちゃんとフェアに分かち合うことを両立させ、それを事前にルール化して表明し、発行体の恣意性で増減できないようにすること。そのことによって事業がいい時も悪い時も、株主からみて発行体が「フェアではある」と思える状況を作りたいと思ったし、「フェアである」信頼を積み重ねることで、長く応援してくださる株主の方に支えられた健やかな事業として育てていきたいという思いがあった。

どんなに「信頼」してる相手だとしても、さまざまな負荷に直面したり、不安な状況に身を置いたりすることで、感情が揺れ、時にそれを相手を傷つけかねない言葉や振る舞いとしてぶつけてしまうということはある。例えば仲の良い信頼しあっている家族であっても、時に荒い言葉や、八つ当たりのような振る舞いだって発生するかもしれない。

だけど「親は親で頑張っているよな」「配偶者に対して今はイラついているが、本当は真っ当な愛すべき人だっていうことはわかっている」「あの子はだらしないところもあるけど心の優しい正直な子だ」というような本質的な信頼は揺らいでいないことも多い。

僕ら発行体も時に株主を含む従業員、取引先等のステークホルダーたちから苛立たれたり、落胆されたりするシーンもあると思う。相対的に見れば発展途上の部分の多い発行体である。でもその気持ちのもっと奥に揺らがない「とはいえあいつらはフェアに真面目にやっているよな、まあ下手くそだなと思う時もあるけど」というような信頼感を時間をかけて醸成していきたいと思っている。

それを目指したのが正解かどうかはわからないが、現在の株主還元方針だったのだ。

(参考)
株主還元ルールの詳細はこちらのページをご覧下さい。


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