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倉沢の短編シリーズ「よりぬき倉沢トモエ」②「バナナケーキとポン太のはなし」

バナナケーキとポン太のはなし

バナナケーキ


 小春日和の土曜午後。

「ポン太さん。バナナのはなしをしても、よろしいでしょうか」
「どうぞ」

 ポン太は、この間からうちにいる子ダヌキだ。
 なぜいるのかと言えば、話せば長いので省く。

「この間から、バナナケーキを焼こうと私は考えていました」
「けっこうですね!」

 落ち着き払って絵本など読んでいるのがにくらしいが、ここで私も心を乱す訳にはいかない。

「ご存じでしょうが、バナナケーキに用いるバナナは黄色くて若いものは用いません。黒くなった、熟したものを用います」
「どちらもたいへん、おいしいものですね」
「……ですので、私はそのためにバナナの籠を分けました。ひとつはポン太さんのおやつ用です。ひとつはバナナの追熟用」
「たいへん、ありがたいです」

 今も彼は、片手にバナナを持っているのだ。

「お先にいただいています」
「どうぞ、それはおかまいなく」

 さっき買ってきたばかりの、黄色いバナナだ。

「私は先週求めてきた、お菓子を焼くためのバナナが熟すまで、あちらの籠に置いていたはずなのですが」
「ほう?」

 ポン太が目を丸くして見せるが、私はまだ話の本題には入らない。

「バナナケーキと、焼きバナナにしようと考えていたのですが」
「ほう? ほう?」
「ホットケーキミックスと溶かしバターのバナナケーキと、無塩バターとブランデーとお砂糖でこんがり焼いた焼きバナナをいただこうと思ったのですが」
「ほう? ほう? ほう?」

「ポン太さん。そのバナナも食べたでしょ」

 言われてポン太は、急にしゅんとした。
 そして、トテトテと歩いて台所へ行き、おやつ用の籠に残っていたバナナ4本を追熟用の籠にそっと移した。

「バナナ代もあとでお支払いします……」

 ポン太は、クローゼットから小さいサルの着ぐるみを出してきた。

 みなさんのお近くのスーパーで小さいサルの着ぐるみがバナナ売場を手伝っていたら、それはうちのポン太です。

 化けられません。

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