コントロード 第四十二話「憧れの先輩~ドラマの撮影現場の話②~」
芸人時代の思い出話シリーズ「コントロード」でドラマの話ばかりするのも気が引けるのだが、あと何話かまとめて書くのでお付き合い頂ければ幸いだ。
2度目か3度目かのスペシャルドラマ「リアル脱出ゲームTV」にも僕らツィンテルは出演させてもらっていた。
最初は総合演出・乾雅人との強力なコネで入れてもらっていたが、2回目からは乾さんを通さずとも入れてもらえることもあった。
このドラマの制作は大映テレビという制作会社が担当していて、そのプロデューサーのワタナベさんが入れてくれるようになったのだ。
ワタナベさんはその後僕がマセキを去ることになってからも事務所の世話をしてくれ、度々ドラマに入れてくれてお世話になっている。もはや今の僕は大映テレビの犬と言っても過言ではない。
ワタナベさんはブサイクなのに男前なことをたまに僕に言って叱咤激励してくれる。先日大好評を博した「テセウスの船」にも入れてくれ、撮影後に「全然面白くなかったな」といつものようにダメだしされたが、予告映像にしっかりと僕を入れてくれたり、キャラに似合わずドラマオンエア中には宣伝のためのツイッターを毎日かかさず上げていて、そのプロフェッショナルさが非常に印象深くカッコよかった。ワタナベさんにはここ数年感謝しかない。
さて、「リアル脱出ゲームTV」では僕らの上司である香山を演じる木南さん、大好きな津田寛治さんなどのレギュラー陣とは別に毎回ゲストが入る。
斉木しげるさんや福士誠治さんなど、この回の時は片瀬那奈さん、野間口徹さん、田口浩正さんが入っていた。
皆さんとても良い方で、福士さんはその後舞台でご一緒したし、野間口さんはコントもやられているので気さくにお話させてもらったりした。
そして田口浩正さんは、知らない方もいるかもしれないが、元ゴリゴリのお笑い芸人で、「テンション」というコンビで僕が子供の頃に観ていたお笑い番組によく出ていて、「ロリポップ」のジングルで痛快なショートコントを披露していた。当時テンションと言えば何週も勝ち抜いていたトップ芸人だった記憶がある。相方さんはあの「芋洗い坂係長」さんである。(当時はもっと痩せていて、逆に田口さんがデブキャラだった)
その後田口さんは俳優として活躍し、これまた毎週観ていた「王様のレストラン」などで有名だ。
僕はずっとゆくゆくは俳優として活動したいという夢を捨てていなかったので、芸人から見事に俳優に転身した田口さんは憧れの存在だった。
憧れも度が過ぎて、「リアル脱出ゲームTV」でも緊張して話しかけられずにいた。こんな時余計なことを言う奴がいる。
セトだ。
セトは意外とどんな目上の方にでもサラッと挨拶をしてサラッと会話をする。出会った頃からそうだった。
この時も、僕が前々から「田口さんのようになりたい」と言っていたのを知っていて、サラッと「ウチの相方田口さんのファンなんですよ。よく田口さんみたいになりたいって言ってます」と頼んでもいないのに勝手に言い出した。
待て!
俺には俺の距離の詰め方がある!
勝手にことを進めるな!
そう思ったがあとの祭りだ。
田口さんは「ふーん」と言って現場に戻った。
ミスったなあ。あらかじめセトに言っておけば良かった。
撮影の合間に喫煙所の方に行くとたまたま田口さんと二人になった。
なんとなく気まずい感じになったが、突然田口さんが話しかけてくれた。
緊張して何を話したか覚えていないが、最終的に
「じゃあ俺の電話番号教えとくよ」
と言って教えてくれた。やったー!
ありがとうセト! 頼りになるぜ!
その後、ドラマでは内部情報をリークした人間がいるというシーンになり、そのリークをしたのは紛れもない僕の役だった。
画面いっぱいに土下座をして謝る倉沢学。
TBSも思い切ったことをする。
ありがたい限りだ。
その後、田口さんにも
「なかなか良いじゃん」
とお褒めの言葉を頂いて、この日は天にも昇る気持ちだった。
その共演がきっかけで、今では田口さんには飲みに連れて行ってもらったり、おうちでのバーベキューに呼んでもらったり、大変お世話になっている。
一度すごく興味深いことがあったのでここに記しておく。
ある日、舞台を観に行った帰りに田口さんと飲むことになった。
メンバーは田口さんと僕、そして田口さんとはやはり共演後に仲良くなった田口さんの飲み仲間である弾丸ジャッキーのオラキオさんと、若い頃から田口さんと切磋琢磨してきた盟友であり名優の吹越満さんだった。
吹越さんも僕の憧れであり、元々は芸人をやっていた大先輩である。
二大憧れの俳優さんと飲めるなんて堪らないな、と思いながら緊張しながらも飲んでいたのだが、途中吹越さんに、
(僕とオラキオさんをふと見て)「で、君らはなに? 同じ事務所なの?」
と突然聞かれ、
「いえ全然別の事務所です」
と言うと、
「なんでそんなに仲良いの?」
と言われたことがある。
まるで怒られたのかと思ってさらに緊張したが、そういうことではなく、吹越さんの時代は、「他の芸人はすべて敵だった、違う事務所の芸人なんてもってのほか。あの頃はひと番組ひと番組が戦争だった」と、当時のお笑いシーンの貴重な思い出話を聞かせてもらった。だから僕らが仲良くしゃべるのが理解できないのだと言う。すごい時代だな~かっこいいなあ、面白いなあと思ったが、同時に、同じ時代に事務所の垣根を越えて出演できるお笑いライブをやろうとラ・ママを始めたリーダーや、僕らがたくさんお世話になったライブ制作団体のK-PROさんのおかげでこうやって色々な他の事務所の芸人さんとお話しできる今があるんだなあとも思った。
お笑い史みたいなものを誰かまとめてくれたら面白いなあ。
探したらあるのかなあ。知ってたら誰か教えてください。
(第四十三話につづく)
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