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コントロード 第四十三話「イジりの達人やついいちろう先輩~ドラマの撮影現場の話③~」

僕らツィンテルが何度かスペシャルドラマ「リアル脱出ゲームTV」に出演させてもらって、時代的にも脱出ゲームが流行りだしたこともあり、このドラマバラエティがついに連続ドラマとして放送することになった。

運良く今回も僕らはキャスティングされ、子供の頃からテレビを観て夢見てきた連続ドラマへの出演という夢を芝居の道から離れてお笑い芸人になったことで回りまわってようやく達成することとなった。人生というのは不思議なものである。

半分レギュラーのような形で何話か出させてもらったことはあるが、僕にとって連続ドラマのレギュラー出演というのは厳密に言うと後にも先にもこの時しかない。

それはもう大変だが幸せな時間だった。

単発の出演と違って連続ドラマというのは長期戦なので、集中力の使いどころを見極め、流すべきところは流してゆかないと体力的にものすごくしんどい。経験が無いので未だに全然わからない。僕でさえそう思ったのだからメインどころの役者さんというのはどれだけタフなんだろうと尊敬する。

さてこの連続ドラマ「リアル脱出ゲームTV」から新レギュラーとなった役者さんの中に芸人さんがお一人。

エレキコミックのやついいちろうさんである。

やついさんとはラ・ママなどライブで何度かご一緒したことがあり、DJもこなす多才なやついさんのやっている「やついフェス」にも出させてもらっていてその時に少しお話させてもらえてはいたが、まともにじっくりとお話させてもらったことはなかった。

この時やついさんと仲良くなれたのも僕にとって大変貴重な時間だった。

最初の内、ドラマの現場が初めてだ、と言うやついさん(意外!)から色々と質問をもらって、こういう時はこうすれば良いです、とか、今はこういう時間です、とかを笑い合いながら恐れ多くも僕らがレクチャーしていた。

やついさんは、一見なにもわからないようなバカな感じで周りの人から笑われているが、気が付くとみんながあの人の手の中で転がされているような、不思議な人だ。

なんていうか、エジソンみたいな人だ。

エジソンに会ったことはないけど。

エジソンは学校で算数で「1+1=2」というのを習った時に、泥団子を両手に持ってそれをくっつけて一つにして「ほら、1+1はやっぱり1じゃないか!」と言ったという逸話が残っているが、やついさんもドラマの現場に初めて入って、普通の役者が見逃すようなところに疑問を持ったり、決められているルールなんかをすごく笑いに変える。

また、この現場にはエキストラさんが結構たくさん入っていて、エキストラさんといってもずっと同じメンバーでやっていた。当然そうあるべきなのだが、やついさんはそのエキストラさんともちゃんと一人一人の人間として接する。面白いおじさんがいたら目ざとく近寄っていき、コソコソと話していたり、僕が「あの子結構可愛いですよね」とか言うとそれをイジって近づけたりする。いつの間にかエキストラさんからもやついさんは絶大な信頼を得ていた。とても初めてのドラマ現場とは思えなかった。

また僕と話していても、その現場にいる共演者さん、スタッフさんにも僕とのひとつひとつの会話をちゃんと笑いとしてオトして提示してくれるので、現場ではいつの間にか僕がイジられ役になっていて、監督やカメラさんからもイジられたり、共演者のメインキャストさんからもそういった扱いになり、おかげでものすごくやりやすくなった。すべてはやついさんのおかげだ。

お芝居の道から離れて芸人になったことで連続ドラマのお仕事が舞い込んで、初めての連続ドラマの現場で芝居の勉強だけではなくやついさんのおかげで今までで一番お笑いの勉強をさせてもらえているというなにがなんだかわからない状況だったが、とにかく幸せな時間だったことを覚えている。

また、やついさんと僕は家が近かったこともあって、現場終わりによく車で一緒に乗せてもらって帰っていて、他にも近くの共演者さんとも乗せてもらうのだが、最後の最後にほんの10分ほど二人になった。

この時だけやついさんは少し真面目な話をしてくれて、普段息をするように現場の雰囲気を良くする一言が、実はものすごい繊細なコミュニケーション能力によって構築されていることを教えてもらって、これも大変勉強になった。芸人というのはとにかくコミュニケーション能力に優れた人が多いものだが、あの人のコミュニケーション能力は中でも群を抜いているように思う。

やついさんの若かりし頃の思い出を綴った本「それこそ青春というやつなのだろうな」を読めばどのようにやついさんがその能力を培ってきたかが垣間見える。おすすめだ。


僕らはこの現場で本当に楽しくやらせてもらい、打ち上げでは総合演出の乾さんからの指令で監督の英さんとチーフカメラマンの藤本さんを完全再現したコスプレで撮影現場あるあるのコントをさせてもらったりして最初から最後まで楽しい思いをさせてもらった。

またあんなお仕事がしてみたい。

やついさんはといえばその後NHKの朝ドラにレギュラー出演したりして、バラエティはもちろん音楽、ドラマ、作家とその才能をいかんなく発揮して楽しませてくれている。すごい人は何をやってもすごいものだ。


この時、そんなやついさんの作ってくれた環境のおかげで僕はたくさん得をして、この現場で楽しくお仕事をさせてもらったわけだ。

感謝してもしきれない。

現場でやついさんにあだ名をつけてもらったことを思い出した。


僕につけてくれたそのあだ名は

「コミュニケーションハイエナ」

だった。

(第四十四話につづく)





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