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コントロード 第二十五話「クラスメイトに憧れた」

僕らツィンテルはこの頃、押しも押されぬマセキの若手のエースとなっていった。

自分たちで思っていたわけではなく、後にジグザグジギーの二人がそう言っていたから、きっとそうだったんだろう。

ライブではお客さんにアンケートが配られ、出演芸人のネタに点数がつけられる。それを事務所の方が統計を出して順位がつく。僕らはこの頃常にトップか悪くてもBEST3には入っていた。

この頃は色々なネタを試して、ダジャレネタを超えるものを作ろうとしていたが、自分たちでもそんな手応えはなく、それでもライブでは順位が上の方で、人気もあって、僕としてはなんだか納得のいかないことも多かった。ライブでは同じコント師のジグザグジギー、漫才では前述の三四郎や浜口浜村、ピン芸人ではルシファー吉岡とほぼ同期と言えるみんなのネタはどれも攻めたネタで、今月の僕らのネタよりもよっぽど高度なネタやってるよなあと思いながらも彼らはなかなか評価されなかった。

コンビとしても今思えばもっと頑張るべきだった。

この頃、相方のセトは「服がダサい」という所に先輩方が目をつけてくれて、ダサいキャラとして平場でよくイジられていた。キャラを見出されたセトは時に舞台上で輝いて、それはそれで事務所に評価されたりした。僕も一緒になってそういう話をしたりなんとかやっていたが、本音を言えば悔しい部分があった。僕自身はどちらかと言えば入りたての頃の方が平場ではできないなりに頑張っていて、イジられるのは僕の方が多かったのだが、それが2年3年と芸歴を重ねるにしたがって相方主体になっていき、合いの手を入れたり話を増幅させるような立場になり、それもうまくできないものだから非常にもどかしかったのを覚えている。

こんな時、同級生のコンビに憧れた。

中学生高校生など学生の頃から苦楽を共にしてきた二人がコンビになると、そういう面で強い。それぞれの良さもダメなところも知っているから相方が笑いを取っている時に一緒になって喜べるし、相方がなにかをやらかしてしまった時には一緒になって反省できる。

その点僕は子供だった。自分だってと負けずに無理をしたり、どうせ僕なんてと消極的になったりして、セトのキャラをちゃんと自分たちのものにしてあげられなかったように思う。申し訳なかった。

「あいつはああいう奴だから」と理解してあげられればコンビとして逆境に強くなる。セトも僕が遅刻した時に謝ってくれたりする優しい面もあるし、逆に僕が「お前の相方なってないぞ」と先輩に言われて謝ったりしたことも何度かある。だけどその時にちゃんと後でお互いに面と向かって指摘し合って怒ったり怒られたりしたことはほとんどなかったように思う。そういうことがちゃんとできるコンビはうまくいっていない時に乗り越えられる。もっと向き合ってコンビとしての意識をこの頃に高めるべきだった。芸人の前に人として相方と向き合うことは絶対に手を抜いてはいけないのだ。


さて、若手ライブに力を入れていた僕らの事務所ではもっともっと事務所ライブを盛り上げるよう事務所の方々から口酸っぱく言われていた。

僕らは演劇時代に小劇場で友達の役者同士でチケットを買いあって結局のところ客席が同業者で埋まるような現状をなんとか変えたいとよく思っていたから、お笑いの一般のお客さんの多さには非常に驚いた。それでももっともっと盛り上げるためにどうするか考えていた時にとあるライブのオファーを受けた。

K-PROという団体の主催するライブだ。

今となってはK-PROは主宰の可愛らしい変態的お笑いマニアの女性・児島さんがバラエティ番組で東京お笑いシーンの御意見番として出演することもあるほど大きくなった団体だが、この当時はまだそこまで大きくはなかった。

マセキライブ以外のライブにも出ることが少し増えてきた僕らはこのK-PROライブのエンディングでもとにかく「マセキの事務所ライブにも来てください! 面白い若手がたくさんいるんで!」と毎回言っていた。なんとかマセキファン以外のお笑いファンも呼んでマセキライブを盛り上げたかった。それで実際に他の芸人のファンになった方々もいるので嬉しい限りである。

K-PROさんには本当にお世話になった。僕たちはK-PROライブで沢山の他の事務所の仲間や先輩ができてお客さんにもなんとか一端の芸人として認知されたし、環境も良く音響や照明のきっかけの多いコントでも文句も言わず完璧なタイミングでやってくれた今は亡き島野さんにも本当に感謝している。今の感染症の状況下でライブができないのはとても心配だ。今は配信で頑張っているのでぜひ観て欲しい。


K-PROに出始めた頃、やたらと今勢いのある若手として聞く名前があった。

ラブレターズだ。

どのライブに出ても「ラブレターズが面白い」「ラブレターズがキテる」といった話を聞くので気になっていた。

初めて会った時のことはほとんど覚えていないのだがたしか今はもうなくなってしまった新宿のバイタスという劇場だった気がする。

噂で聞くラブレターズはなんでも尖ったコントをやっている若い奴らという触れ込みだったので、実際に会ってその見てくれのあまりのキュートさに拍子抜けしてしまった記憶がある。

二人とも小さくて、お坊ちゃま風の溜口とすきっ歯で坊主の塚本。

聞くと僕らと芸歴はほとんど一緒だったし、僕と同じ日大の芸術学部出身の後輩でもあり、ますます可愛く見えてきて、その後何度も何度も同じライブに出て、飲みに行ったり飯を食ったりビリヤードをやったり旅行に行ったりお笑い界を変えようと誓い合ったりした。とてもとても可愛かったが温泉に入った時に見た塚本のリトル塚本は全然可愛くなかった。ヘラクレスオオカブトみたいだった。

ラブレターズと行った、とあるトークライブのVを撮るために行った江の島小旅行は今思い出しても楽しかった。

風呂場まで裸でChoo Choo TRAINで向かったり、

超ハイテンションでUNOをしたり。

今文字で書き起こしてもなにひとつわかってもらえないだろうが僕の芸人人生で最も笑った思い出の一つだ。

ラブレターズは今や人気の実力派芸人だが、家族同様であるマセキ芸能社の芸人を置いておけば、僕の中でいつまでも大ブレイクしてほしい芸人であり友人である。そんな二人も思えば大学の同級生。

同級生コンビっていいなあ。

ANNを聴いた今日は余計にそう思う。

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(第二十六話につづく)




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