コントロード 第一話「相方との出逢い」
※この物語は、僕がお笑いコンビ「ツィンテル」として活動していた頃にブログ連載していた、コンビ結成から解散までを事実7割・創作3割の割合で描いた物語を改訂したものです。この割合は僕のバイブルである「まんが道」形式ですので、タイトルも「コントロード」としています。尻切れで未完だったので、noteで気が向いたら続きを書こうかと思います。どこからか有料にするかもしれません。そうです。僕は過去を振り返るのが嫌いじゃない性質なんです。
幼少期から自分の親の世代が熱中したものに憧れていた僕は、中学生になるとビートルズを聴き、チャップリンやビリー・ワイルダーの映画を愛する、渋めの少年だった。
親戚が日本舞踊の教室をやっていたのをきっかけに、「女みたいで嫌だ」と言いながらも通っていた日舞のせいもあってか、いつしか人前でなにか表現をするのが好きになり、映画好きだったことも手伝って、僕が両親に「俳優になりたい」と告げるにも、そう時間はかからなかった。
高校時代に愛読していた映画雑誌「cut」で、好きだった俳優が幼少期に複雑な家庭環境や海外生活をしていることが多いことを知り、俳優になるためには様々な経験が必要なんだなと思った。
一か八か、「……お父さん、ひょっとして僕はあなたの本当の子供じゃないんじゃないか」と聞くと父親は僕そっくりな顔で「そんなわけあるか」と笑うので、僕に残された道は海外留学しかなくなり、親に無理を言ってイギリスに1年間の語学留学をさせてもらう。
その後日本では数少ない演技を学べる大学を条件に、僕は日本大学芸術学部に入学し、4年間芝居に明け暮れた。
高校までそれほど目立たなかった僕が、大学で今までずっとやりたかった演技ができると、水を得た魚のように生き生きとキャンパスライフを送ったものだった。
二十歳過ぎまで僕の人生は、僕の俳優人生の設計図通り滞りなく進んだ。
気づけば卒業。
大学でやっていた演技は、確かに役立った。
僕は様々な演技術を身につけ、戯曲を読み、理論を知った。
だが。
俳優というのは、当然ながら、誰もがお金がもらえるわけではない。
食って行ける俳優など一握りだ。
気づくと僕は20代後半にさしかかっていた。
ふと気づいた。
今の自分はどうだ?
幼い頃思い描いていた将来とはこんなものだったか?
フランスを旅行した時に撮ったカンヌの赤絨毯の写真を持ち歩き、いつかはあそこに、と夢を誓ったあの夜は何処に?
僕は焦った。
今まで若さゆえ無駄に毛嫌いしていたTV関係者の関わっている舞台や少しでも有名人の出演する舞台のオーディションを雑誌やインターネットで探しまくり、がむしゃらに迷走した。
そんな毎月の日課であるオーディション探しのインターネットの旅をしていたある日。
ふとある劇団のオーディション記事に目を留めた。
TVドラマや有名な老舗劇団の脚本を書いたことがある作家の主宰する劇団のワークショップの参加募集の記事だった。
演劇においてのワークショップとは、「公演を目的としない稽古」のことであり、これによって主宰者はお金を得たり良い俳優を見つけたりする、演劇界ではごまんとある活動である。
僕も大学卒業後たくさんの数のワークショップを受け、アルバイトで稼いだ金を注ぎ込んだ。良いものもあればもちろんただの金稼ぎみたいなものも多い。
だが、この頃の僕は、そう、焦っていた。
聞いたことはないが、何かに繋がるかもしれない。
僕は迷わずメールを送った。
「参加希望します。」
この一通のメールが自分の人生を変えるとは知らずに。
ワークショップでは様々な人が集まる。
この頃の僕は、言ってみれば演劇の大学を卒業し、それなりに技術があることもあって、こういったワークショップではリーダーシップを取ることも多かった。
いわゆる「天狗」だ。
ワークショップ後、この劇団の本公演のオファーが舞い込んだ。
僕なら当然、と驚きもせず、さて、本公演ではどう今後に繋げるか、と策略を練る、この頃の僕はなかなかに嫌な奴だった。
ワークショップと違って、本公演は選ばれし者たちの集まりだから、
演技的にはぐっとレベルが上がる。
そんなこと、なにするものぞ、とまだまだ天狗の鼻は伸びる。
さあ、いよいよ稽古初日。
台本ができているわけではなく、初めてやるメンバーの雰囲気を見て、それから脚本を書いてゆくスタイルを取っていたこの公演で、なにやら、すでに主宰の作家や看板女優と親しげに話す一人の男がいた。
聞けばもう以前に本公演に何度か出た、主宰作家の信頼を得て、ワークショップオーディション無しに選抜された男だそうだ。
まずあいつを倒す!
これが稽古初日の僕の目標となる。
そのにっくきライバルが、すっと僕の方に近づいてきた。
なんだってんだ。
この男はあっけらかんとこう言い放つ。
「へえ。ガクって言うんだ。じゃあ、ガックンだね。」
なにがガックンだ!
大体俺は年上だぞ!
敬え!
敬語を使え!
この野郎!
「俺、セト。セトタケオ。みんなからは、セティって呼ばれてんだ。よろしくっ!」
これが、僕と奴との運命の出逢いだった。
(第二話へつづく)
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