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コントロード 第十八話「Catch the Wave」(前篇)

「爆笑レッドシアター」内の若手コーナー「ホワイトシアター」の収録は、観覧客が入っている収録で、その観覧のお客さんがとんでもなく笑うお客さんで僕らはかなり戸惑った。

おそらくADさんからいつもより沢山笑うように指示が出ていたのだろうが、それにしたって笑いすぎだ。

あまりにも笑ってくれるものだから次のセリフを言えなくて変な間が生まれたのをよく覚えている。

事務所の大先輩ウンナンの内村さんが僕らのネタを見てくれた。あとでオンエアを観たら僕の言ったボケを繰り返して言ってくれていてものすごく嬉しかったなあ。

2本撮りの収録で、僕らが出ない方の回には当時まだ「劇団イワサキマキオ」のコンビ名だった、後にコント日本一となる現「かもめんたる」のお二人が出ていた記憶がある。

かもめんたるのお二人とはこの後よくライブでご一緒して仲良くさせてもらった。お互いの主催ライブにゲストで呼び合ったりもした。楽屋ではなぜかうだいさんが男としての点数をよく付けていて、僕は他の芸人と比べてものすごく点数が低かった。顔面偏差値と身長と服のセンスで付けているらしいのだが僕はいつも100点満点中20点台だった。


ホワイトシアターにはお酒のダジャレネタで採用された。

最も強いと思っていたイタリアや韓国ネタではなくお酒のネタで採用されたのには番組側の狙いもあったのではないかと薄々思っている。

当時のホワイトシアターのネタ見せは同じくフジ系列の「爆笑レッドカーペット」のオーディションも兼ねていて、2番組のチーフディレクターの藪木さんが見てくれていたのだが、ホワイトシアターに出てからレッドカーペットに進出するのが定番で、僕らの場合はよりキャッチーなイタリアや韓国ネタを時間帯の早いレッドカーペットで初出しするために、その前にホワイトシアターでお酒のネタをやらせてもらったのだと勝手に思っている。事実ホワイトシアターからレッドカーペットに行くスピードは僕らは当時の若手の中でものすごく速かった。

実はこの頃、僕たちは同じネタでもう一つ番組ネタ見せに通っていた。日本テレビの「ぐるぐるナインティナイン」内のコーナー「おもしろ荘」である。この「おもしろ荘」も若手にとっては登竜門番組のひとつであり、フジ系列の「レッドカーペット」と日テレ系列の「おもしろ荘」は若手発掘番組として競っていて、暗黙の了解でまずはどちらか一方しか出演できないようになっていた。

「レッドカーペット」か「おもしろ荘」。

マネージャーと話し合い迷った挙句、僕らは「レッドカーペット」を選び、イタリアのダジャレネタで初めての収録に臨んだ。

「爆笑レッドカーペット」は今田耕司さんと高橋克実さん、フジテレビアナウンサーさんの司会で、たくさんの若手が奥の入り口から飛び出してきてショートネタをやり、ネタが終わるとレッドカーペットが動き出し舞台上手に流されていく。その後にゲスト審査員さんが点数を付け「満点大笑い」「大笑い」「中笑い」とランク付けされるという若手の見本市のような人気番組だった。

お台場の湾岸スタジオというキレイで大きなスタジオに昼前くらいに入り、収録は夜中まで及ぶ。

番組で最も偉いはずの藪木ディレクターが、本番収録中は誰よりも大きな声を出して「ヒューヒュー!」と観覧のお客さんを煽ったり、笑い声を出していてくれたりするのがものすごく暖かくて、僕ら芸人の大きな力になった。


この頃になるとネタは作った当時よりもかなり洗練されていた。レッドカーペットのショートネタの持ち時間は長くとも1分半。一つ一つのボケを精査し、大げさではなくコンマ何秒まで調整をした。例えばライブでのウケを考えて僕の「リゾットするよ……」からセティの「マルゲリータ」までの間を0.3秒ほど詰めた。「リゾットするよ……」は初めて僕が乗っかって言うダジャレだから、お客さんにとっては「そっちも言うんだ」という頭での理解が必要になる。ダジャレとしては強いものではないので「リゾットするよ」での弱い笑いと次のセティの手で大きな丸を作って言う「マルゲリータ」という「そういうことだ」の意味の笑いを二つポイントを分けて作るよりも「リゾットするよ」「マルゲリータ!」と勢いをつけて言うことで大きな一つの笑いを取る方がテンポも良いし盛り上がるという分析だ。お笑い芸人はこういった馬鹿げたことを真剣に命を懸けて考えるのだ。

僕らの順番が迫ってきていた。

ADさんに呼ばれ、音声さんにピンマイクを付けてもらい、舞台セットの裏に並ぶ。

緊張している。

そんな最中に、直前でセティが突然言ってきた。


「一個増やしていい?」


今さらなんだってんだ?

(第十九話につづく)




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