コントロード 第三話「僕とコントと男と女」
この物語は僕が以前やっていたお笑いコンビ「ツィンテル」を結成するまで、結成してから解散に至るまでを事実7割、創作3割の割合で書いているものです。
にっくきセティの先輩と無理やりに会わされたその日から、数日が過ぎた。
一体あれはなんだったんだ。
ふと携帯に目をやると、セティからの着信が。
「ちょっと話がある。」
この年下の男は平気で人生の先輩を呼び出すのだ。
渋谷。
蜷川幸雄やNODA・MAP、大学時代によく行った大劇場、シアターコクーン近くにある、とある喫茶店。
セティと席につくと彼は出し抜けにこう言った。
「男だけで笑いを主としたコント仕立ての芝居をやる演劇集団を作る。ガックンにぜひ協力して欲しいと思ってる。」
そう言うと奴は満足気にコーヒーを啜った。
きっと今までの人生、うまくやって来たんだろう。
自分の誘いを断る者などいるはずがない。
自信家の奴はそうとでも言いたげだったが僕の答えはこうだ。
「僕は演劇が好きで、舞台を7、8年やってきた。コメディは大好きだし、笑いを取る役もさんざんやってきたが、笑いだけを取る行為に興味は無い。」
僕はコーヒーが飲めないことを奴に悟られまいと、負けずに口をつけた。
酸味が口に広がった。
セティの返答はこうだ。
「俺はやりたいことは売れた後にいくらでもできると思ってる。俺自身も芝居は好きだし映画や舞台など良い仕事がしたいけど、それは売れた後でもできると思う。」
奴はまたコーヒーを啜る。
僕も口を開く。
「僕は芝居の楽しみ方も創り方もわかってる。だが『コント』という代物は楽しみ方も創り方もわからない。今の時点でやれる自信もない。」
僕は腹が痛くなってきた。コーヒーを飲むといつもこうだ。
また奴が話す。
「できるかできないかは問題じゃない。俺はガックンと共演して面白いと思った。力になって欲しいと思った。主宰の小島もそう言ってる。俺たちの判断だ、責任はこっちで取る。そこは心配しなくて良い。」
ああ言えばこう言う。口の達者なやつだ。
しばしの沈黙。
「……僕は、今、彼女とうまくいってない。」
「?」
「女一人笑わせられない状況で、人を笑わせることなどできないと思う。」
「それは……よくわからない。」
それはそうだろう。
自分でもなぜこんなことを奴に言ってしまったのかわからない。
大学時代からつきあった彼女と別れては復縁し、「元鞘のガク」の異名を持っていた僕は、鞘が多くなりすぎてそのうち間違えて自分を刺すんじゃないかと心配されていたが、この時も彼女とうまく行っていなかった。
余談だが、僕は役者をやっていたためつきあう彼女も女優さんが多く、やきもち焼きだった僕は彼女の出る芝居を観に行っては舞台上で他の男と抱き合ったりキスをしたり下着姿で踊ったりする自分の彼女にいちいち傷ついていた。それが影響して僕の恋愛観はかなり偏屈になり、そういった辛い状況をなんとか克服するために、やむなくそれを快楽に変えるという方法で乗り越えたので今ではすっかりNTRもの(AV用語で「寝取られ」の意。自分の愛する人がほかの男に奪われるジャンル)の虜の立派なドMに成長した。
さて話を戻そう。
コーヒーでお腹がぐるぐるいってきたところで、
「1回だけやってみて面白くなかったらそれでやめてもらっていい。」
「少し考えさせて欲しい。」
そう言って僕らは別れた。
げんきんなもので、人間、自分を認めてくれる人には好意を持つもの。
僕はわりと流されやすい性質だ。
憎かったセティが、なにか、もののわかるような男に思えてきた。
数日後、当時つきあっていた彼女とうまくゆかないまま、
僕は、
生まれて初めての「コント」をやってみることにした。
(第四話に続く)
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