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コントロード 第七話「Comedian Dream」

お笑いライブ、というものを初めて経験し第二回公演「ループ」を終え、続いての公演はセティの故郷石川県七尾市からのオファー、能登七尾演劇祭での公演だった。

セティの故郷はかの無名塾主宰の名俳優、仲代達矢氏がその土地を気に入ってついには日本でも有数の大劇場を建ててしまうほど入れ込み、演劇で町おこしをしようと活気づいている小さな田舎町だ。


そこでただ公演をやるのではつまらない。色々な場所で公演を行いたい、というのが主催者側の考えで、僕らは町のすでに使われなくなった議場(小さな国会のようなものを想像して頂ければ良い)で公演を行って欲しい、とのお誘いだった。

この時に、地元の出身のセティを主役に使われなくなった議場を舞台にする地元のお年寄りでも楽しめるような作品、をコンセプトに創られた舞台「せとたけお」は、

町で育った青年たけおが町長選挙に立候補し、その周りの幼なじみが大人になるにつれ子供の頃の夢を失ってゆくこと、それに納得がいかないたけおの心情などを描いた、なんとも青臭いワンシチュエーションの青春コメディで、これが僕が生まれて初めてほぼ最初から最後まで書いた一本の芝居となった。

演劇に嫌気がさしてきた、それでも誰より演劇を愛していた僕が、久々にやった演劇公演だった。

この作品は今でも本当に気に入っていてツィンテル五人組のそれぞれのキャラクターも非常によく活きている、いつかまた再演したいと思う作品となっている。


この町の町長になって、皆で一緒に仲良く住めるようにする!と言って、今でもその夢を叶えようとしているタケオ(セティ)、
小さな頃からガキ大将で格闘家になることを目指していたが、今では地元の工務店を継いで子だくさんのヒロシ(小島フェニックス)、
子供の頃からガリ勉で、博士になることを目指していたが、地元の中学教師に落ち着いたタカシ(かあきじいんず)、
みんなと違うことをするのが好きで、ハリウッドスターを目指していたマコト(倉沢学)は、東京に出て借金に追われバイト暮らし、
とにかくスケベで女の裸にしか興味がなかったシゲル(デビ)は、結婚した奥さんが横綱級の巨体になってしまった。

そんな五人が織りなすこの「せとたけお」という作品は、当時の僕自身の気持ちがとてもよく表れていて、地元の温かいスタッフやお客さんにも支えられ大好評で幕を閉じた。


そんな楽しいひとときを終え、年末。


折しもこの頃は空前のお笑いブーム。

エンタの神様やレッドカーペットなど、TVをつければネタ番組ばかりやっていた。

そして年末と言えば、M-1グランプリ。

アンタッチャブルさん、チュートリアルさん、ブラックマヨネーズさんなどのスターを輩出した大番組が、今年も幕を開けた。

その年もただ、いち視聴者として楽しみに見ていた。

優勝候補のキングコングさん、ラストイヤーのトータルテンボスさんなどに交じって運良く敗者復活の切符を手に入れ、そのまま勢いに乗って優勝したのが、サンドウィッチマンさん。

そう、この夏お台場の小さな劇場で行われた、街頭で呼びかけなければお客さんも数人しか集まらなかったような小さなイベントライブ。

人生初のお笑いライブイベントとしてツィンテル五人組が出演し、そこで漫才を披露していた、あのサンドウィッチマンさんである。


あの人たちだ。

信じられない。

セティ、あの人たちが。


M-1で優勝した!

あの時同じ舞台に立っていたあの人たちが、


日本一の、漫才師や!

素敵な世界やおまへんか!

僕は気づくとセティにメールを打っていた。


一夜にしてスターダムをつかむことなど役者の世界ではほとんどない。

だが、お笑いの世界ではこんなことがあるのだ。

セティも驚いていた。


かつてカリフォルニアでは、金を発掘するために人が集まり、金鉱脈目当ての山師や開拓者が殺到することになったと言う。

俗に言う、ゴールドラッシュである。

お笑いは、一夜にして大スターを生む世界。

この不景気のご時勢で、そうやって芸人を始めた人たちがきっとこの頃ごまんといたことだろう。

時代は芸人ラッシュだった。


そんなお笑いブームは、確実に僕らの心にも影響していた。


別に仕事を持っているフェニ、東大の研究室があるかあきさんと公演の予定が合いづらくなっていたこの頃、僕とセティとデビは、お笑いライブへの出演を検討していった。


そんな中で僕たちは「キングオブフリー」という事務所に所属していない芸人のトップを決めるという、小規模なライブを見つけて応募してみた。


40組ほどの出場者の中、僕ら3人は、2位だった。


「お笑い」というものが、遠く輝いたTVの中の世界だったはずなのに、なんだか近い世界のように思えてきた。

僕たちは、さらに、お笑いライブを探すようになった。

ただ、どのお笑いライブが良いライブなのか、僕らにはわからない。

とにかく一度お笑いライブを観に行ってみよう。

そう言ってセティを誘った。


どのライブを観に行こう?

まずは巷でお笑いライブとして評判で、事務所の垣根を越えて様々な芸人が出ているライブがいい。

だったら、


ラママ新人コント大会。


その老舗ライブに行きつくのは当然だった。

まさか数年後、毎月のようにそのライブに出ることになるとも知らずに……。


(第八話につづく)



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