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新型コロナ、お前だけすげーわ(風邪で死んでいった高齢者たち)ケース1

 みなさんは今まで「風邪で高齢者が亡くなっていた」のを知っていますか?
 
 私は看護師です。25年以上前に看護師免許を取ったので、今と医療や福祉の制度が違いますが、新卒で勤めた公立病院には『寝たきり患者さん』は居ませんでした。
 寝たきり患者さんの多くは、自宅などで脳卒中を発症し、救急搬送された先の病院で命を取りとめる治療を受けたのち、回復期を過ぎたら、リハビリや療養のための病院・福祉施設に転院となります。
 もちろん療養型の病院やリハビリ病棟では、嚥下訓練などADL(日常生活動作)の自立や、QOL(生活の質)の向上を目指したリハビリ療法が行われますが、脳卒中発症から治療までの時間が長ければ長いほど、脳に酸素が充分に行き届かない時間が長くなり、脳に不可逆的な障害を残してしまうケースも数多く存在します。脳に重度の障害を負うと、社会復帰できる確率が低くなり、寝たきりの状態になる方もいらっしゃいます。
 そういった重度の障害や基礎疾患があったり、寝たきりで体力が落ちていたり、加齢によって衰弱した高齢者たちは、風邪がきっかけで亡くなることもありました。
 いくつか事例をあげ「風邪でも重症化するし死亡していた」ことをみなさんに知ってもらいたく、シリーズで綴ります。

ケース ⒈ うちのじいちゃん季節性コロナで死んだのかなぁ?

 我が家のじいちゃんは15年くらい前に86歳で死にました。肺炎でした。
 一度も大病をしたことのない健康優良児を素で行く鍛冶屋の男。70歳手前で職人を引退し、認知症が徐々に進行した。
 自宅で家族が介護するも、ついに主たる介護者のばあちゃん(妻)に暴力を振るうようになり、老人ホームへ。     

 自宅でもガス管をはさみで切断したりと、認知症の症状に職人気質が現れていました。老人ホームの家具を怪力で持ち上げたり、施設を修理しようとして危険行為に及ぶため、介護士たちの目配りも限界となり、精神科より処方された眠くなって動けなくなるような薬が内服開始となりました。
 
 精神科の薬を飲んだあと、自力で動くことも食べることもできず、飲水もままならなくなり、一気に体力が落ちたことでしょう。小太りだった身体は痩せ細り、一日中ナースステーション近くのソファに座ったまま首を垂らし、涎を垂らしていました。何を話しかけても発語はありませんでした。
 
 そしてその年の12月、涎と鼻水を同時に垂らしていたじいちゃんは、風邪をひいたあと全身状態が悪化し、胸部レントゲン写真で肺炎と診断され、隣接する老人病院に入院しました。
 もって3日〜4日、長くて1週間くらいと言われ、治療を望むならもっと大きな病院を紹介しますが……と言われましたが、家族で話し合って「治療は要りません」とお断りしました。
 冷たいと思いますか? ばあちゃんはじいちゃんが妻の顔すら分からなくなる最後の最後まで「私が責任もってみる」と言って、自室でじいちゃんの夜間ポータブルトイレの世話やオムツ交換もしていました。まあ、一人でやり切ろうとしていたのは、関係が複雑な嫁の世話にはなりたくなかったのかも知れませんが(苦笑)
 
 ただ、常時家族が目を離せないくらい認知症が進み、自分で自分の身を守ることができなくなったり、食事や水分を自らの力で取れなくなった時点で、人の死に限りなく近づいたのだと私は考えています。

 話は逸れましたが、じいちゃんは発熱・鼻水の風邪症状発症からすぐに肺炎となり、昏睡状態になりました。
 もし転院して治療して助かったとしても、入院によって認知症がさらに進み、歩くことすら出来なくなったとき、じいちゃんの人としての尊厳は保てるのかを一緒に生きてきた家族の視点で考え、治療は断りました。あのときの判断に後悔など感じていません。じいちゃんの気持ちは分かりませんが、70歳すぎまで怪我も病気もなく生き抜いて、ある日を境に死へ向かって歩き始めたのは「うちのじいちゃんという一つの生体」ですので、家族の責任ではないのです。

 CTも撮っていません。入院先の老人病院にはCTはなかったと記憶しています。当時、あの老人ホームで風邪が流行することはあっても、インフルエンザの検査は行っていませんでした。
 老人病院で行われる処置は、飲水食が出来ない分を補うため、糖分と電解質の輸液にビタミン剤を混ぜ、24時間、腕から持続投与すること(個人的には点滴の必要はないと思いますが……)。点滴で体内に入れた水分量と排泄される尿量のバランスを観察するために尿道にカテーテルを挿入して留置すること。モニター心電図で心臓の動きを観察すること。熱・脈拍数・呼吸・血中酸素飽和度を測定し、酸素マスクで酸素を投与すること。肺の雑音や喘鳴を観察。喀痰貯留がある場合、適宜、吸引を行うこと。ざっと書き出すと、以上です。
 肺炎を起こす直前に風邪の症状がみられましたが、肺炎のきっかけがどの病原体によるものなのかは分かりません。何度も言いますが、ウイルスの検査は行っていません。もしかして肺のCTを撮って精密検査をすると、新型コロナと同じ病変が見られていた可能性も否定はできないと思うのです。うちのじいちゃんだけではなく、風邪から肺炎に至った高齢者に、精密検査と治療をしていないケースが過去にたくさんありました。

新型コロナは今まで見たことのない症例だと話すドクターが多くいらっしゃいますので、きっと普段見たことのない「普通じゃない」病状の進行なのだと思います。

では次回は、何らかの感染を疑う症状のあとに何も治療せずに10日〜14日で多臓器不全で亡くなって行った看取り患者さんたちの様子をお話ししようと思います。

※イメージ画像の右手はテレビに映った白衣の筆者

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