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銀細工作家・佐藤奈穂子さんによるインドタテガミヤマアラシの造形

銀細工作家、佐藤奈穂子さんによるヤマアラシのブローチです。長さ46mmの小振りなアクセサリーです。

佐藤奈穂子・作「インドタテガミヤマアラシ」2022年

ヤマアラシは草食性の哺乳類ですが、体毛が硬くなって針毛(とげ)になっていて、襲ってくる敵に反撃します。全身を均一に武装しているイメージですが、武器になるのは、胴体の後半部分から、太く後ろに突き出た長い針毛です。胴体の前半は細めの短い針毛で覆われ、顔と足とお腹は軟らかい毛で覆われていて、体毛の分布にメリハリがあります。

アクセサリーには、この生態学的な特徴が、図案化してきちんと表現されています。

銀は軟らかい金属なので、切削が難しいのですが、細い針毛がナチュラルに糸鋸で切り抜かれています。後ろに突き出た針毛(とげ)の先端はカール状に丸めてあって、身に着ける人の安全に配慮されています。胴体の部分は、銀板がチタン色に処理されています。産毛になっている顔と足は、処理された塗装膜を研磨して地金のシルバーに戻してあり、部位による質感の違いが区別して仕上げられています。

装飾には、入手がなかなか困難で、高価なベビーパールが多数使われています。小さなパールに穴を開けてワイヤーに通されており、ここにも繊細な加工の技が潜ませてあります。

佐藤さんは、岡山市の池田動物園に通って、実際に生活するインドタテガミヤマアラシのカップル、アッシュとハリーを観察して、生態学的な特徴を抽出されました。
2021年11月24日、カップルに赤ちゃんが生まれました。パールを連ねた装飾は、赤ちゃんヤマアラシのかわいらしさと、かいがいしく赤ちゃんの世話をするカップル一家の愛らしさを想起させます。

工芸品としてのアクセサリーは、身につける人を飾るのが目的なので、モチーフは、世間一般のイメージとして判りやすくデフォルメされた動植物です。つまり匿名的な存在です。それを、輝くように磨いたり、華やかに宝石を散りばめたりして、商品にします。

佐藤さんのアクセサリーは、モチーフを直接観察し、モチーフとなった固有名詞の動物が、生き生きと生活している様子を描写するのが重視されています。装飾には、モチーフとなった動物への愛情が貫かれています。

そのような作品を身につけた人は、知性の輝きを放ちます。
工芸の領域を越えた、サイエンティフィック・アート、と言える造形です!

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