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久保田寛子さんの油彩画作品に現れたギュスターヴ・クールベの本質

画像は、今や有力なイラストレーターとして活躍されている久保田寛子さんが、いわゆる修業時代に描いた油彩画です。しかし、独自性において、すでにその才能が開花しています。

久保田寛子・作 油彩画 2018年 筆者・蔵

ノースリーブの着衣のまま横向きで眠る女性が描かれており、その安らかな眠り姿を観ていると、かつて観たギュスターヴ・クールベの「川辺でまどろむ浴女」が思い出されました。

ギュスターヴ・クールベ・作 川辺でまどろむ浴女1) 1845年 デトロイト美術館・蔵

本作品は、2016年に開催された、「デトロイト美術館展~大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち~」で来日しました。展覧会は国内3会場を巡回し、筆者は、大阪市立美術館の会場(2016.7.9~9.25)で作品に遭遇したました。もう8年近くの月日が経っていたのでした。

19世紀中頃のパリで活躍したクールベ(1819ー1877)は、それまでの絵画が題材にしていた聖書や神話に捕らわれない自由な絵画表現を目指しました2)。作品のなかで浴女は、水浴のあと、ただただ眠くなって、川辺の木影でそのまま眠っています。その眠りは、人間を知性や理性から解放し、無心の動物と同じ生命感を発露させています。そこに物語性や寓意はありません。1)

一方、久保田さんが描いた眠る女性も、ただただ安らかに眠っています。そこには、動物が生きている象徴である呼吸が感じられます。構図が、クールベ作品の浴女とは逆に、頭が下向きになって鑑賞者の側に向かってきており、より生命感が強調されるようになっています。

作品は、オリエント山陽の榎本美恵さんによる額装により、絵を取り囲むマットに枠線となる溝が加えられました。それが、眠る女性を護るゆりかごのような安堵感を与えて、クールベ作品における木影の代わりを果たしています。榎本さんによる額装も表現と一体化し、無くては成らないものになっています。

・・180年近くの時空を経て、日本に在住する久保田さんの初期作品に現れた、かの時代の先駆者クールベの本質に、びっくりしました!


引用画像・文献
1)千鳥伸行・監修 グラハム. W. J.ビール・他執筆 産経新聞社・フジテレビ・編集:デトロイト美術館展~大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち~. 産経新聞・フジテレビ・電通・ピア, 2016, P44-45
2)1)P163

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